第18話 気管に入るのはすごく痛い

「それで、レインドール姉さま…お話と言うのは…その」


宮古メメが視線を移ろう。どうにも言い難い事であるらしいが、レインドールは既に察している。


「(大方、久島くんの処遇について聞こうとしているのねえ…まあ、一応はメメの口から話してくるのを待ちましょうかあ)」


そんな事を考えながら、宮古レインドールが紅茶を口に含んだと同時。


「その…し、式は何時頃でして?」


「ぶふッ」


式…結婚式とでもいうのだろうか。

随分と早とちりな事を、宮古メメは口にしていた。

御蔭で、宮古レインドールは咳をしている。紅茶が気管に入ったらしい。


「だ、大丈夫でしてっ!?」


「ふっ…ん、はっ…な、なにを急に言い出すのかと思えば…」


涙目になる宮古レインドールに近づいて背中を擦る宮古メメ。

宮古レインドールは近くに置いておいたナプキンで口元を拭う。


「なぜ、私が久島五十五と結婚すると言う話になったのかしらあ?」


「え、いえ…あの、30億でご購入しましたので…それ程までに本気なのかと…」


宮古メメを見ながら宮古レインドールは思わず溜息が出て来る。


「別に、そんなつもりは無いわよお…ただ、大椿の娘があまりにも癪だったから、あいつの天狗の鼻を挫く為にやったに過ぎないわあ…久島五十五なんて、興味なんてないものお」


興味ないと、断言して、宮古メメの安心を得ようとする。

彼女の言葉に対して、宮古メメは安心した様子で、胸に手を添えて吐息を漏らす。


「そ、そうでしたの…それは、それなら…良かったですわ」


宮古メメは嬉しそうに目を細めた。

彼女の表情に、宮古レインドールは、思わず頭を撫でたくなる。


「(まあでも万が一があるかも知れないけれどお…そうなってしまっても仕方が無いわよねぇ?だって私が彼の身分を買ったんですものね?)」


「本当に良かったです…姉に手を出さなくて…」


ふふ、と笑う宮古メメに、宮古レインドールは首元を絞められたかの様な恐怖が一瞬過った。


「(この子、同族に手を出そうと思ってないわよねえ?…いえいえ、疑うのは失礼よねえ?)」


内心は焦りを浮かべながらも、宮古レインドールは表情を柔らかくして、宮古メメに微笑んだ。


「それで…レインドール姉さま…久島さまは一体、どうするのですか?」


と、宮古レインドールに、今後の久島五十五はどうするのかと伺って来る。


「え…ああ、そうねえ…エナにもハルメンにも聞かれたわあ…」


「…え?あのお二人がですか?」


そう伺った時。

食堂の扉が開かれてVIP席へと駆けこんでくる、銀髪で隻眼の妹がやってくる。


「お姉ちゃんッ!お兄ちゃッ…先輩をどうするの!?」


「また来たわねえ」


どうにも、せっかちな姉妹であった。

説明するのも面倒なので、どうにか全員で来て欲しいと、宮古レインドールはそう思った。


「権利の売買?」


宮古リティは首を傾げていた。

宮古レインドールは新しい紅茶を飲みながら頷く。


「まあ、ようするに、久島五十五の権利を小出しにしてオークションで売ると言う感じねえ…、例えば一日だけ所有する権利、あるいは、ダンジョンでの活動を動向させる権利、それらをオークションで売買するのよお」


久島五十五一人では、宮古レインドールにとっては手に余る事だ。

しかし、だからと言って、その権利を所有する宮古レインドールが、それ以外の人間に無償で貸し出すと言う真似はしない。

それは単純に、宮古レインドールの資産を補填する為の行動であるし、何よりも彼女自身が、悪女として振舞うのならば、と言う思想の元、その様な結論に至ったのだ。


「そ、それでは…あの、姉さま、添い寝してくれる権利も、ですか?」


顔を赤くしながら、思わず鼻血を出してしまう宮古メメ。

明らかに興奮しているのか、はぁはぁと重苦しい吐息を漏らしている。


「じゃあ、…デートしたり、ホテルに行ったりする権利も?!」


宮古リティは自分で言って顔を赤くした。


「ま、まだホテルは早すぎるよぉ…」


両手で頬を添えて、首を左右に振る。

明らかに恥ずかしがっているが、宮古レインドールは空笑いをする。


「リティ、貴方自分で恥ずかしがって恥ずかしくないのかしらあ?…まあ、そういうワケよお、とりあえずは、オークションサイトでも確認してごらんなさいなあ」


デバイスを起動する。

取り合えずは軽い感覚で、宮古レインドールは権利売買を選択して、久島五十五の権利を記入する。


「一先ずは…一日だけの権利売却ねえ、期限は三日後に設定、最低金額は500万からよお」


そう言うと、宮古メメ、宮古リティがデバイスを操作した。

更新されると、宮古レインドールのデバイスに、入札額が希望されました、と言う文字が浮かび上がる。


『メメさんが入札額:1000万を希望しました』

『リティエルさんが入札額:2000万を希望しました』

『ハルメンさんが入札額:4000万を希望しました』


「少しインフレし過ぎじゃないかしらあ?」


500万から始めたのに、今では4000万にまで膨れ上がっている。


「落ち着きなさい…まだほかにも権利を売買する予定だからあ…お金を出し惜しみしないにも程があるわあ、あなたたちい」


「レインドール姉さまには言われたくありませんわ」


「先輩に30億だす程だしね」


それは違う。

あくまでも宮古姉妹の保身を守る為に行った行為だと言う。

それを信用はするが、それ以外の理由もあるのだろうと、彼女たちは理解していた。




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