第17話 喧嘩を買う落札者
車に乗り込む大椿フェイラン。
高級車に乗車してシートに背中を預けると、扇子を閉ざして大きく笑う。
「見たかしら!あの女たちの無様な顔をッ!たかが男一人とったくらいで狼狽しちゃって、いい気味だわ」
ケタケタと、上品な笑いとは言い難い彼女の笑い方。
その声を知るのは、車を操作する運転席に座る従者だけだった。
「でもね、この程度じゃ、私に刻まれた憎しみは消えたりはしないわ」
頬に触れる。自らの皮膚に爪を立てそうになる程に、彼女の指先が皮膚に食い込む。
余程、宮古一族に恨みを抱いているのだろう。
「もっともっと彼女たちの悔しがる表情を見てみたいものだわ…ん」
そんな所で、大椿フェイランはデバイスの振動を察知した。
デバイスを操作してオークションサイトに接続すると、罠に掛かった獲物を蔑む様な瞳を画面に映す。
どうやら、新しく、入札額が上昇したらしい。
「また入札できが上がったみたいね…ふぅん、やるじゃない。入札額いきなり五千万もあげてくれるなんて」
入札額はデジタル数字で『3000000000』と表示されていた。
其処で大椿フェイランは脳内で『3億』と数字を漢数字に変換する。
「とっても健気ね…それじゃあ、もっと悔しがらせてあげるわ」
デバイスをフリップ入力で、『3億』を上回る金額を入力している。
大椿フェイランの現在資産は13億程である。これ程の資金を久島五十五に全額投資しても良いとさえ思っている。
それで、宮古姉妹が悔しがるのならば、安い買い物なのだ。
「はい、3億6千万で希望する…と、さあどんどん上げてみて?その度に私が希望額を釣り上げてあげるからッ…ほぇ?」
だが、入力ボタンを押しても、反応しない。
むしろ、ボタンを押すと、『入札できません』の注意テキストが出現してくる。
「…なんで希望額を上げることができないの?どうしッ」
焦りを浮かべる大椿フェイランは、そこで初めて、自分が思い違いをしている事に気が付いた。
現在入札額を、「0」の数字を潰す様に数えていく。
「…あれ?ちょっと待って…、いち、じゅう、ひゃく、せん…10万、100万、1億…じゅッ」
『3.000.000.000』と表記されている。
『30億』で、久島五十五が入札されつつあった。
「30億円ッ!?はあああ!?」
驚きの声を漏らす、大椿フェイラン。
彼をその値段で入札したのは、たった一人のファンだった。
「…別に、久島の事なんかに興味がないけれどお?それでも…私の姉妹を、一族を馬鹿にされて黙っていられる程、お上品な女じゃないのよお、私はあ…だから、お望み通り買ってあげるわあ、その喧嘩」
デバイスを操作して、宮古レインドールは久島五十五を『30億』で入札する事を決意した。
宮古レインドール、姉妹の中で尤も多く資産を持つ女性であった。
時間は経過する。
既に、オークションサイトでは久島五十五の入札は締め切られて、落札額は不動の30億で幕を下ろした。
オークション会場『ロックナンバー』にて身分の譲渡やその他諸々の書類にサインをした事で、久島五十五は完全に宮古レインドールのものとなった。
これには、学園中は壮絶な事件として噂がたつ。
あの無価値の久島五十五が学園で歴代一位を飾る『30億』と言う価値を以て落札された。そしてその落札相手が、久島五十五の敵役として存在し続けた宮古レインドールが落札したのだから。
殆どの生徒は、久島五十五を見てこう思うだろう。
『この男は30億という価値がつく程の存在なのか』と。
そして殆どの生徒は、宮古レインドールを見て戦慄するだろう。
『30億を払う程に、久島五十五に恨みを抱いているのか』と。
傍から見れば、久島五十五と宮古レインドールは敵同士。
その宮古レインドールが久島五十五を落札したと言う事は、それはつまり、久島五十五を他の人間に渡したくない、または、その身分を購入する事で、全ての権利を所持する事となる。
如何なる残虐な行為も、非道なる行いも、全ては宮古レインドールの赴くままだ。
久島五十五はそれを拒む事は出来ないし、拒否をする権利もない。
宮古レインドールはそれを狙い、彼を落札したのだろう、と生徒たちは思っている。
そう考えると、どうにも、久島五十五に対して同情的な目を向けるものが多くなっていた。
宮古レインドールに対して、偏見の目を向けられる事自体は、悩む事ですらない。
宮古レインドールは悪女である。その役割を徹底している以上、世間に対する目などどうでもいい。
ただ、六姉妹がいればそれでいいのだ。
「…」
そんな事を考えている宮古レインドール。
女子生徒専用の食堂、それも特待生のみが扱う事を許されたVIP席にて、テーブルに置かれた料理を呆然と見つめている宮古レインドール。
宮古レインドールは注文した紅茶を飲んでいるが、テーブルの上には大皿が積まれている。
彼女とは反対側に居る宮古メメが、更に乗せられたサンドイッチを頬張っていた。
「…」
もごもごとリスの様に頬張る宮古メメ。
その表情を見て愛おしく眺めている宮古レインドールではあるが、しかし沈黙の意味を探っていた。
「ふぅ…すいません、もう一皿、お願いいたしますわ」
スタッフにサンドイッチの注文をした所で、宮古レインドールは、以前話を切り出さない宮古メメに痺れを切らして自ら話を切り出した。
「それで…用件ってなんなのかしらあ?」
聞かずとも分かり切っている。
恐らくは、久島五十五の事に関してだろう。
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