第10話 宮古リティの受難

「はい、振り込み確認しました」


ピラミッド型のダンジョンの入り口から出て来る、宮古リティ。

外から溢れる日差しが入って来ると同時に、彼女はデバイスを一旦、手から離して、自らの眼帯を付け直すと、髪型を直していく。

銀髪の髪を、眼帯の方へと流していき、傍目から見れば、片目を隠している様にも見える。


「それでは、はい、また」


そう言って、ダンジョン運営協会からの連絡を断ち切る。

体を伸ばして、宮古リティは歩き出した。

一日中、ダンジョン攻略に励んでいた。

攻略難度A『旱魃砂漠迷宮』を、僅か一日でクリアした。

これが男性陣、適合者のみの編成であれば、攻略するのに数か月はかかるだろうし、多くの適合者が、犠牲になったかも知れない。

それでも、こうして、攻略する事が出来たのは、やはり、宮古リティだから、と言えるだろう。

宮古一族。

多くのダンジョンアイテムを複合して作られた人工生命体。

母親の遺伝子と、ダンジョンアイテムから作られた遺伝子を重ね合わせた生きた兵器。

ダンジョンアイテム回収を目的とした彼女たちの実力は、他のダンジョン攻略者とは違う。

その身には超能力と称される能力を持つ。

ダンジョンアイテムを使わずとも、固有の異能を所持している。

倫理観を超越したからこそ、彼女たち宮古一族は三大一族の一人として数えられたのだ。


「(早くしないと…)」


宮古リティはデバイスをオークションサイトに接続する。

今回のダンジョン攻略によって、報酬金は1億5000万を手に入れる事が出来た。

これを全投資して、久島五十五を競り落とす。

そう思って、オークションサイトを確認した時、既に、久島五十五が急上昇ランキング1位に輝いているのを発見して愕然とした。


「な、なんでぇー?!1億7000万えーん!?」


必死になって、ダンジョンを攻略したのに、宮古リティは思わず泣き出しそうになった。

頑張ったのに、全然届いていない。自らが貰った即金が、全然足りていないのだ。


「ぐぅう…(先輩を競り落とせないッ!先輩は、私の荷物持ちなのに…他の人に取られちゃう…)」


そう考えた宮古リティはオークションサイトから離れて、電話番号を入力、連絡をする。

今度はダンジョン管理運営ではなく別の会社だ。


「もしもし?DIオークションの開催をしたいんですけど、はい、今日、会場を抑えて貰って、…予約?即金で一億払います、なんとか会場、開けて下さい」


まだ、宮古リティには、ダンジョンアイテムがあった。

ダンジョンで回収したダンジョンアイテム。これをオークションで売り出そうとしていた。



「取り合えず、移動でもしようか」


久島五十五はそう言うと共に、宮古ハルメンを抱き寄せて、お姫様だっこをする。


「(は、わわっ)」


急に、体を抱き上げあれた宮古ハルメンは、一瞬だけ体の熱を忘れて、驚きの表情を浮かべる。


「悪いね、このまま、運ぶから」


「そ、そんな…私は、大丈夫っ、ごほッ」


咳き込む真似をする宮古ハルメン、その頬は赤く灯って、目は熱を帯びていた。


「くどうッ」


更に背後から飛び込んでくる、宮古エナ。

そのまま首に手を回して、腹部に足を絡める。

前門に宮古ハルメン、後門に宮古エナと言った具合だった。


そのまま、久島五十五は彼女たちを連れて、歩き出す。

何処へ行くのは、その足取りは、保健室の方へと向かっていた。


「久島様、こんなところに…お二人は、どうかされまして?」


そして、廊下を移動中に、久島を探していたであろう宮古メメと遭遇した。

久島五十五が背中に背負う二人を見て、不思議そうな表情を浮かべている。


「あぁ、少しだけ、ね」


その少しだけ、と言う内容に、宮古メメは気になる様子だった。

しかし、それを聞き出すよりも、同じ血族である二人を背負うのは、中々厳しい事だろうと、宮古メメは思った。


「二人を背負うのは重たいでしょう、私も…二人は、少し無理なので、どちらか片方、お世話しますわ」


そう言って、背中にしがみつく宮古エナの脇に触れる。

力の限り、持ち上げて自分の方へ移動させようと思ったが。


「そんな事言って、代わりにおぶってもらうつもりなんだろこの背中は私のものだ」


が、宮古エナは強く久島五十五に絡み付いて、離れようとはしなかった。


「エナが駄々っ子モードになってますわ…何か粗相でもしまして?」


不安そうな表情を浮かべる宮古メメ。

しかし久島五十五は相変わらず、優しい笑顔を浮かべて首を左右に振る。


「いや別に、ただちょっとね」


何かあった事実はあるが、それほど重要な事でもないと。

久島五十五の口ぶりは、曖昧さに極まっている。

だからこそ、宮古メメは心配してしまうのだ。


「そのちょっとの内容が気になるのですが…」


どうにか、その内容を聞こうと思うが。

それでも、頑固なのか、久島五十五はなんでもない、の一点張りだ。


「本当になんでもないよ、心配しなくてもいいんだ」


彼女に心配をさせまいと、そう言っているのもあるだろう。

それ以上に、久島五十五にとって、こんな事は本当になんでもない事だ。

なんでもない事を言って、心配させてはならないと、そう思っているのだ。


「そうですか…では、話を戻しますが」


妥協をする宮古メメ。

今度は、宮古ハルメンの方を見て手を伸ばす。

私が持ちます、と言う意味だろうが。


「いや、いいんだ。これでも鍛えてる、二人くらいどうってことないよ」


それでも、久島五十五は二人を持ち上げながら言った。

しかし、今回ばかりは、久島五十五に重石を乗せない様に、宮古メメは負担を肩代わりしようとする。

宮古エナは目が覚めていて、不貞腐れている。

問答をしても、意味がないが、宮古ハルメンは、目を瞑って、眠っているのだ。

これならば、宮古メメが久島五十五から引き受けても、知らず内に運ぶことが容易だろう。


「あなた様にご苦労をかけたくはありませんわ…ですから、宮古ハルメンの方を私が」


久島五十五の手から宮古ハルメンを受け取ろうとするが。

…宮古ハルメンの指先が、久島五十五のシャツを掴んで離さない。


「あれ、全然、離してくれませんわ…ほら、ちょっと離してくださいまし」


無理に引っ張るが、離れる事は無い。

それも、その筈だ。


「す、すぅ…すぅ…」


宮古ハルメンは、現在、狸寝入りを決め込んでいた。

無論、久島五十五に運ばれる、と言う幸福を一人、噛み締める為である。

そして当然ながら、同じ血族である宮古メメにはその狸寝入りは看破されていた。


「あなた、ハルメン、そのような寝息なんてたてないでしょう、もっと喘ぐような声を出しながら寝ていますのに」


その様に叫ぶ。

日々、熱に魘される病弱な彼女は、ベッドの中で微睡の中で声を漏らす。

その声が、まるで喘ぎ声の様に聞こえるからか、宮古メメはそれを、久島五十五の前で暴露してしまった。


「た、たてて、ない、すぅ、すぅ…」


そして、寝言で会話をする宮古ハルメン。

最早決定的であり、宮古メメは声を荒げて。


「そんな具体的な寝言言うはずありませんわっ!やはり起きていますのねっ!」


ぐいぐいと、久島五十五の腕に眠る宮古ハルメンを引っ張るのだった。


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