第51話 軍勢を出せぬ司馬家

はにわ市が混乱のるつぼだったころ、輪の国の政府はのらりくらりと責任を回避していました。

協陽党の遅滞工作の為、動けない状態にありました。


司馬家としては、最初の段階ではにわ市潜入を防ぐドクトリンを取る予定でしたが、それを政府は許しませんでした。

辛うじて通ったのが、はにわ市周辺の軍の配置と脱出する市民の保護でした。


司馬家次男の嫁、ダーク・ムーンの情報収集などにより、はにわ市から脱出してきた市民の状況が分かりました。

話によると、ラッキー・ホット・コモリの一党が無実のはにわ市民を生贄としてクラブ帝国幹部に送っていること。


また、協陽党もクラブ帝国幹部とのつながりを保つためにはにわ市の同胞を奴隷として確保し送っていることなどが分かりました。

中には家族の娘や息子、妻や夫を殺されたり、奴隷にされたとして悲しみよりも怒りを表明する者も多くいました。


司馬家の4人はそうした人々に目を付けました。

彼らを、はにわ市奪還の特殊部隊として編制することをそれぞれの英雄が考えていました。


まず、次男の趙謖が「はにわ市の地の利に明るく、何より輪の国の敵に対して敵意を持つこれらの人々の想いを活用すべきだ」と言います。


四男の信頼が「復讐の心は尊い、彼らの願いをかなえてやるべきだ」と同意します。

三男の信景は「はにわ市における混乱の計に使える事は明白で、働く場所と方法をあたえるのがよい」と別の角度から同意します。


最期に長男の馬括が「全員同じ考えのようだ、直ちに教育と部隊編成をしよう!」

はにわ市から逃げてきた復讐者たちに対する処遇は大体決まりました。

それは、正規軍とは違うゲリラ兵的な役割と忍者のような民心動乱の為の役割を持つ存在として後々生かすことにしました。


彼らには正規兵としての身分は与えず、書類上は行方不明の扱いにすることも決めました。

戦争前の条約など糞くらえ、すでにクラブ帝国は虐殺と奴隷という明らかな条約違反を堂々と行っているではないか。


このころのはにわ市はさらに悲惨な状況になっていました。

市民たちが奴隷や虐殺に合わないようにするために、見ず知らずの人間や近所の友人までも、クラブ帝国に密告して奴隷や虐殺するように密告していました。


つまり、ラッキー・ホット・コモリの一党や協陽党のやっていた密告を一般市民も行うようになっていたのです。

虐殺された者は数百万人、奴隷としてクラブ帝国に送られた者は数十万人に上ります。


彼ら、彼女らは戦争が起きる前は普通の夫、妻、学生、子供でした。

それがラッキー一味の不用意な発言の為に死、あるいは死すら生ぬるい待遇に置かれることになったのです。


もはやはにわ市のほとんどの人々は人の心を失っていました。

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