第39話 光武帝を望むか、凡庸を望むか?

光武帝、かつて三国時代の英雄たちが尊敬した英雄であり皇帝です。

趙謖、信景、信頼の3人はよく知っている人物です。

馬括だけは生まれてくる時代が違ったので最初はだれの事か分かりませんでしたが、同じ中国生まれの趙謖が丁寧に教えてくれたので、大体どんな人物か分かりました。


この人物の話が四英雄のなかで盛り上がったのには理由があります。

今まで、見てきたように輪の国の皇室は既に君側の奸により汚されていました。

まだ、表面では問題が起きていませんでしたが、これからの外国や国内の干渉によっては聖皇という立場そのものを揺らぐ可能性がありました。


もし、事態が悪化して、皇室という制度そのものが危機に瀕した時に、この光武帝を待望する、あるいは準備するのが良いのか?

それとも、残っている皇族が誰であれ対応できるようにするのが良いのか?

これも四英雄で論争になりました。


光武帝待望論の強い支持を訴えたのはやはりというべきか、三国時代の英雄である趙謖です。

彼に時代は光武帝の時代から約200年後の話であり、しかも彼の主君はその血筋に近い存在です。


さらに、彼の尊敬する丞相もまた光武帝推しでしたので、彼がその考えに染まるのは自然な事でした。

彼は熱弁を振るいます。


「かつて輪の国は聖皇の元で強力な権力を集約して一つになっていました。強力な主君の元で国家を一つにした方が今後の諸外国との戦いにおいても優位に事を進めることが出来るのではないでしょうか?」


この意見に即座に反対を唱えたのは三男の信景です。

彼の時代の将軍や天皇はお飾りにすぎず、光武帝のような活動力と運を兼ね備えた存在を求めるのは無謀だと判断していました。


「光武帝が現れてから、漢は200年しか持たなかった。あんな優秀な人間がぽんぽん出てくるはずがない!そのような理想論はこの時代には合わないのではないか!」


皇室問題に沈黙を貫いていた四男の信頼もこの意見に賛同します。


「皇室というのはあくまで制度として守るべきもので、カリスマのような人物を待ち望むのはリスクが高い!神話の影響があるからといっても聖皇は所詮私たちと同じ人間です」


今の時点で光武帝のようなカリスマを待望し、補佐する意見は一対二で不利です。

後は長男である馬括の意見です。

彼は慎重に言葉をえらびます。


「人間は千差万別、色んな個性がある!これは皇族とて同じだ!今の制度では皇族に権力を与えておらず、それでうまくいっている面がある」

「皇族の適正でリスクを負うよりも誰が聖皇、または聖皇候補になっても良いように備えておく方が我ら司馬家にとっても都合がよいのではないか?」


そして、彼は趙謖の方を向いて説得します。

「光武帝にこだわる気持ちは分かるが、ここは異世界だ!名君が出て来なくて国が亡びることがあってはいけない。ここは折れてもらえるだろうか?」


長男の馬括にここまで説得されては次男としてもこれ以上意見を突っぱねるわけにはいきません。

趙謖も意見を取り下げて、他の三人の意見に合わせることになりました。


こうして、司馬家としては、皇族にどのような人物が現れるかよりも、どの皇族が現れても補佐しつつ、権威は与えないという方向性で皇室を守ることになりました。

正直に言えば、皇室の毒牙に対して後手の対応ではありますが、部門の名家である司馬家は近衛のような親衛隊の人脈はありません。


あくまで遠くから包み込むような形で皇室を補佐するしか方法がありませんでした。


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