第21話 長男馬括の10年
平和で覇気の薄い国、輪の国の名門司馬家の長男となった馬括。
かれは大学卒業後、地方議会に参加すべく議員として立候補します。
彼の立候補は司馬家の既定路線のような物で家内の人々も司馬家の影響が強い地元も当たり前のように受け入れ、様々な準備をしました。
地元を上げて彼は選挙運動を行い、泡沫候補を破ってすんなり地方議員になりました。
彼は司馬派の頭領として、また若手のホープとしての歩みを進めます。
その中で大きな行事が結婚、正確に言えば政略結婚です。
彼は、大学卒業してから3年間地方議員を勤めましたが、その時期に結婚をします。
相手は美麗七州国出身のエルフでした。
彼女もまた、美麗七州国の名門の出であり、姿も麗しい女性でした。
具体的には背がとても高く、肌は白く、スタイルも良い、しかもはかなげな感じのする清楚な淑女という外観です。
馬括が意識したのは相手の家柄、そして彼女の人柄でした。
上流階級の女性には大きく二種類の女性がいます。
ある女性は野心的でわがままなタイプ。
このタイプを娶ると苦労することを馬括は知っていました。
彼もまた、上流階級の人間だったからです。
もう一つは、箱入り娘タイプです。
親が子供を溺愛し、かつ子供も優しく育ちます。
親が子供の視線で教育をするため、変に大人ぶることもなく、頭が回ることもない、ただ、礼儀と常識をわきまえた大人しいタイプです。
馬括としては、大人しめの淑女を娶ったほうが、将来の司馬家にとって大切であると判断し、この清楚な淑女を早急に娶ることにしました。
とはいえ、輪の国と世界一の大国である美麗ではいろいろと差がありました。
司馬家は当分美麗の威光を後ろ盾にしつつ、輪の国の利害をある程度譲歩することは覚悟しなければならないと考えました。
これは、国と国のパワーバランスという観点から飲まざるを得ない現実的判断でした。
さて、結婚して、美麗の名門の後ろ盾を得た馬括はすぐに国会議員に立候補しました。
名門司馬家とはいえ、まだ30前の馬括には早い出世ですが、美麗の後押しが大きく、馬括も上流階級らしいふるまいには慣れていたので、波風があまりたたずに国会議員に選出されます。
馬括は元々、他国からの援助によって出世し、1国の軍隊の総大将になった人物です。
前の世界で他の英雄たちと活発に議論したので、自分のどこが問題かをよく理解していました。
もし、他国が自分を傀儡にしようというなら、それまでは思い通りにさせてやる。
だが、隙を見て餌を食らい、釣り人をせいぜい落胆させてやろうという逞しさを今の馬括は持ち合わせていました。
「せいぜい、よい餌を撒くがよい!私は鵜飼の鵜にも猟犬にもならず、いずれ飼い主を食い殺して見せよう!!」
馬括とその妻の時間は幸せなものでした。
ちなみに妻の名はソフィア、エルフらしい清楚さは比較的潔癖症の馬括と相性がよく、彼女も馬括の若々しく活気に満ちた姿を見て、冒険に連れていかれるお姫様のような錯覚を時折するくらいに幸せでした。
なにしろ、輪の国は平和です。
この日が続く限り、夫婦関係も順調に進む予定でした。
国会議員になった彼は、司馬家と輪の国の伝統を受け継ぎ、国防関係の委員会で仕事をしていました。
彼がこの仕事で関わる人種は、軍人、制服組、軍需関連の企業、そして美麗の政治家や企業群でした。
輪の国は敗北後、軍事関係は削減の方向に向かっていましたが、一方で美麗とのお付き合いという重要な要素があったため、予算は長期低迷という塩梅でした。
それでも、軍事費が無くなることも軍需産業が無くなることもありません。
モノづくりが得意な輪のドワーフたちにとって技術の継承は細々とですが大切に扱われました。
また、軍人たちの制服や生活必需品も予算として馬鹿にはなりません。
また、軍事関係の人々の人気取りも大事です。
この点はかつて、馬括の母親が「息子はケチなので父のように褒美の品を部下に分け与えず、むしろ自分の物としてがめてしまい人望がありません!」
などと悪いエピソードが伝わっており、この話を事あるごとに趙謖や信景が貶すネタにして笑いものにしたので、彼は神経質なまでに人望を気にし、予算を沢山取り彼らに分け与えるように日々努力していました。
今の日本の政治家も、自分と家族でがめたり、中抜きしたりせずに税金を安くしてほしいですね。
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