第17話 モブ神との別れ

モブ神の視点で四英雄を見ると、既に戦略や戦術の視点では彼らの生きた時代より進んだ異世界に対応できると判断しました。

あとは現代レベルで見た時に大学生レベルの知識と常識を教えることが必要と考えていました。


これについては20年間、彼らの元居た場所のようなセットをモブ神が作り、その中で彼らに生活をさせました。


なぜ、元の世界に転生させなかったかと言えば、あくまでこの試みは異世界の神のゲームのようなものであり、モブ神は自身の世界に四英雄を干渉させたいとは考えなかったからです。


そうした思惑の結果、完成したのが今の四英雄です。

馬括と趙謖は生前の記憶とゲームでの経験、そして現代の故郷つまり中国で経験を積んだ大学生というスペックです。


同様に信景や四郎信頼もまた日本の彼らの故郷である地域の学生として過ごしました。

その間は時々、夢のような形で前世を思い出すこともありましたが、あくまで夢であり、彼らは自分の前世が何者かは理解していませんでした。


ちなみに、こうした例は初めてではなく、有名な所ではイエス・キリストが30歳前まではごく普通の大工のせがれとして育ち、その後、生前の記憶を取り戻した例もあります。


まあ、これはかなり特別な例でもあり、モブ神の範囲外の話なのでこの辺で話を止めておきましょう。


さて、こうして22歳になった彼らは、今度はそれぞれが異世界に飛ばされることになります。

馬括はお約束の車との接触事故、趙謖は病死、信景は高い所からの転落死、四郎信頼は山で遭難死という形で転生先の異世界に飛ばされました。


こうして四つの魂を持ったモブ神は異世界の女神の所に赴きます。

「ご注文の通り、おたくの文明レベルを理解した成人を四人連れてきました。なかなか楽しい時間でしたが、ゲームの勝敗は別です」


「彼らが前世で失敗したことを、今のあなたの世界で挽回できるか否か、楽しみにしています」


異世界の女神は満足そうに四人の魂をみつめつつ、モブ神の礼をします。

「お手数をかけましたね、彼らはきっと名誉挽回してくれると私は信じています。でも人間万事塞翁が馬(じんかんばんじさいおうがうま)ですから私の予想を超えた何かをしでかすかもしれませんがね」


モブ神は去る前に一つの行事を行います。

それは、今まで四英雄と過ごした時間の記憶を彼らから消去することです。

「私たちの世界では悪名を残しましたが、新しい世界では名誉を挽回してください。インチキは出来ないのが私の立場ですが、願うことはできます」


「どうか、前世の悪名を吹き飛ばして、民草を天下泰平に導いてください」

その姿を見ていた異世界の女神は急にいたずら心が湧いたのか?

モブ神に転生先の地図と彼らの行く時代を記した情報をテレパシーで伝えました。


モブ神はそれを知り、絶句しました。

「女神よ、これはいささか彼らには酷な世界ではないですか?」

「地獄とまでは言いませんが、彼らにとっては新しくも難儀な世界ではありませんか?」


女神はいたずら好きな少女のごとき笑顔でモブ神に応えます。

「単に転生して以前の生き方を自省するだけでは面白くありません、彼らにはあくまで私の世界で名を挙げて欲しいのです。簡単な間違いを正すだけの人生では、彼らにも失礼でしょう」


「異世界の神よ、四英雄の教育ありがとうございます。これから彼らは私の世界の住人として、歴史上の偉人として世界を作ってもらいます。」

「彼らの人生のクライマックスになったらお呼びしますので、どうぞいらしてください」


モブ神

「では、興味深い素敵な歴史があなたの世界に刻まれますように」

こうしてモブ神は自らの世界に戻り、この物語は名実ともに異世界編に突入するのでした。



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