第2話 ~両親達の黒歴史~

 あれは、橘花(きっか)や皐希(こうき)が生まれる前だったから、俺たちが小学生の頃だと思う。

「和音、これ何のディスクだと思う?」

 予備の文房具を探すために桜花の両親の寝室にある父親の机を漁っていた桜花が、何か宝物を見つけたという感じで光学ディスクの束を持って来た。一番上にあるケースのラベルの表には、『特別講座 平成版  Part.1 ~取扱注意~』の文字が書かれていた。『特別講座 昭和版 Part.1 ~取扱注意~』なんてのもある。ラベルの裏には、『制作:相田塾 監修:相田診療所 提供:相田薬局』なんて書かれていた。

「何かの講座のビデオソフトじゃないか?何だろう。」

「変に隠すように仕舞ってあったの。和音は、この中身が気にならない?」

「親の机のところにある資料は触るなって言っていなかったか?」

「机の上でも、机の中でもなかったのだから、大丈夫でしょう。」

「ジュースとお菓子もあるし、一緒に観ようよ。」

「わかった。何かあったら、一緒に叱られてやる。」

「仲間。仲間。……持ってくるから、準備しといて。」と背中をバシバシと叩いてくる。


 『特別講座 平成版 Part.1 ~取扱注意~』の方が新しそうだったので、ディスクを取り出して、デッキにセットして、いつもの定位置に座る。桜花は、持って来たペットボトルからジュースを一つのコップに注いでテーブルに置くと、テーブルと俺の間に割り込んで、俺を背もたれにしてヨイショッと強引に座ってしまう。

「もう一つのコップは?」

「洗うの面倒でしょう。和音と私だけなんだから一つで十分でしょう。」と、さっさと一口飲んでしまう。

「桜花がそれで良いなら良いけれどね。」と、コップを受け取った後飲み口を90度回して俺も飲んだ。

 桜花を後ろから抱きかかえて、桜花の腹の上で手を組むと、桜花がリモコンを操作した。


 画面には近所の高校の制服を着た4組のカップルがそれぞれのカップルで手を結んで並んでいた。

「相田達也(たつや)です。」「容子(ひろこ)です。」

「相田和也(かずや)です。」「洋子(ようこ)です。」

「相田俊也(としや)です。」「志保(しほ)です。」

「相田亮也(りょうや)です。」「美保(みほ)です。」

「このビデオソフトは、私たち4組の婚約が決まった記念に作成した特別講座です。関係者以外は視聴しないでください。」

「では、俊也先生による講義になります。」

 画面で講義が始まると、桜花の体温が急激に上がって、耳が真っ赤になって、リモコンで映像を止めてしまった。おそらく俺も同じ状態だろう。お互いにお互いの鼓動を聞きながら、争うようにジュースを飲んだ。もう飲み口がどうのこうのなんて言っていられない。

「「性教育ソフト」」

「これってお父さん達だよね。」

「病院の小父さん達と、薬局の小父さん達もいるね。」

「桜花、これ俺たちが見ちゃまずいものなんじゃないか?」

「お父さんやお母さんたちが作った性教育ソフトなら、きっと将来の子供である私たちのために作ったんだよ。逆にしっかり見てやらないと駄目だよ。」

 桜花は、電源を落とそうとした俺の手を抱え込んで排除してしまう。

「でも、みんな、さすがに若いね。」

「お母さんたちはあまり変わらなくないか?」

「続きを再生するからね。」


 最初の方は、先日学校で男女別にやった性教育の授業と同じような内容だったので良かったのだが、話が進んでいくとだんだん様子がおかしくなってくる。

「では、概要はこのぐらいにして、実際の体と行為がどうなっているのか見てみましょう。」と言うと、8人の裸体が画面に現れた。

「最初のモデルは、達也と容子にお願いします。」

 8人の局部を拡大表示しながら、順に論評していった。女性陣については処女膜の状況まで撮っている。桜花はずっと俺の手を握っていた。

「部位の説明の次は、性交です。」

 4組のカップルが、順に前撫から始まって、各体位を順繰りに実演して、説明していった。

「最後に、処女喪失の状況の具体例をお見せしましょう。」

 4組のカップルが、順に挿入をしていく。二人の表情をしっかり見せる映像になっていた。男性陣はしっかり射精までして射精後の画像も残されていた。

 次のコーナーは避妊についてだった。前のコーナーと雰囲気が異なりどこか切羽詰まった様子で、母が避妊について説明していた。もうすぐ説明が終わるというところで、母が突然座り込んで足元に置いてあったバケツに吐くような行為をするとともに、画面外から桜花の母である洋子さんも吐くような行為をして、父たちが看病していた。

 薬局の星也さんの解説が続いた。

「前のコーナーで初体験を避妊しないで行ったために、容子さんと洋子さんは仲良くご懐妊になりました。おめでとうございます。ちなみに、達也君と和也君は、このように青痣が派手に残るほど父親達からお祝いをされました。避妊による計画的な妊娠による家族計画の遂行は大事です。避妊具のご用命は、是非、相田薬局まで。」もっとも、次の画面で同じように青痣が派手に残る俊也さんと亮也さんが並んで、『避妊は大事』というパネルを持っていた。

「母さんたちのおなかの中の子って、俺たちのことか?」

「他にいるわけないでしょう!静かにしていて!」と桜花に怒られた。

 それに続くコーナーでは、母たちのお腹が大きくなり体型が変わっていく様子が、順に映されていった。母たちのあんな幸せそうな顔と、それを気遣う父たちの様子は、お前たちは望まれて生まれてきたんだと言われているようで眩しかった。

「お母さんたち幸せそう。」

 ソフトの映像は、母たちの陣痛の様子につながり、分娩の様子が映され、最後は産着を着せられた俺と桜花を抱いて幸せそうにしている二組の家族の映像で終わっていた。

 しばらく何もできずに、ただひたすらに桜花を抱えていたら、沈黙を破る者が現れた。

「あなた達。いったい、どこからそれを持ち出したの。」と洋子さんが仁王立ちしていた。

 洋子さんの怒りに満ちた小言と、恋する乙女のような学生時代の惚気話と、厳格な教師としての性教育は、夜、桜花の父が帰ってくるまで続いた。

 桜花は和音に絶対責任を取らせるんだとかぶつぶつ言っていたが、なんのどういう責任なのかはあえて聞かなかった。それでも、桜花をあんな幸せそうな表情にできる男になりたいとは思った。


~後日談~

 二家族合同で温泉旅行に行った時に、親たちが宴会を続けている一方で、夜遅くなったから小学生は先に寝ろと、桜花と俺は隣の部屋に寝かしつけられた。トイレに起きた桜花が何か様子がおかしいから来てと俺を起こしたのでついて行った。桜花は後ろから抱きしめろと要求してから、隣の部屋を静かに覗けという。親たちが性行為をしていた。

「やっぱり、ナマはいいなあ。」

「ちょっと。やめて。」

「いいじゃないか? 必ず外に出すからさ。」

「おっ。そっちもそろそろか? 同時にいけるか?」

 桜花は顔を真っ赤にして暴れ挙動不審になった。その結果として、桜花と俺は親たちのところに雪崩れ込んでしまった。なんか問題が起きたらしく両親達があたふたしていたが、冷静さを取り戻すと覗きはするなと説教された。一時の怒りが収まった両親たちに、あらためて性教育をされた。

 ちなみに、それから10か月ほどした俺と桜花と同じ5月5日に、橘花(きっか)と皐希(こうき)が生まれた。子育ての実践も教えてやろうと、唆されて子守をさせられたのは言うまでもない。


~相田家一族~

 曾祖父母1

 父:相田 欽也(きんや)-市立中学の教師

 母:相田 花子(はなこ)-(相田塾)

 第一子:哲也(てつや)

 第二子:直也(なおや)


 曾祖父母2

 父:相田 孝也(たかや)-(相田診療所)-敏也(としや)の兄

 母:相田 聖子(せいこ)-看護師

 第一子:昌也(まさや)

 第二子:良子(よしこ)


 曾祖父母3

 父:相田 敏也(としや)-(相田薬局)-孝也(たかや)の弟

 母:相田 星子(ほしこ)-薬剤師

 第一子:星也(せいや)

 第二子:和子(かずこ)


 祖父母1

 父:相田 哲也(てつや)-県立高校の教師

 母:相田 良子(よしこ)-県立高校の教師→相田塾講師

 第一子:達也(たつや)

 第二子:洋子(ようこ)


 祖父母2

 父:相田 直也(なおや)-市立中学の教師

 母:相田 和子(かずこ)-(相田塾二代目)

 第一子:和也(かずや)

 第二子:容子(ひろこ)


 父:相田 昌也(まさや)-(相田診療所二代目)

 母:相田 亮子(りょうこ)-看護師

 第一子:俊也(としや)

 第二子:亮也(りょうや)


 父:相田 星也(せいや)-(相田薬局二代目)

 母:相田 保子(やすこ)-薬剤師

 第一子:志保(しほ)

 第二子:美保(みほ)


 父:相田 達也(たつや)-市立中学の教師

 母:相田 容子(ひろこ)-(相田塾三代目)

 第一子:和音(おと)

 第二子:橘花(きっか)


 父:相田 和也(かずや)-県立高校の教師

 母:相田 洋子(ようこ)-県立高校の教師

 第一子:桜花(おか)

 第二子:皐希(こうき)


 父:相田 俊也(としや)-(相田診療所三代目)

 母:相田 志保(しほ)-看護師

 第一子:拓也(たくや)

 第二子:知保(ちほ)


 父:相田 亮也(りょうや)-(相田薬局三代目)

 母:相田 美保(みほ)-薬剤師

 第一子:奈保(なほ)

 第二子:聖也(まさや)

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