第8話:冒険者と傭兵

「この世界では冒険者ってのは存在しなかったな、たしか」


 姫様傭兵団の面々から必要そうな情報は大体入手したのでその情報を精査しようかと思ったがなんとこの世界、異世界ではお決まりの冒険者と言う職業は存在しない様で替わりに傭兵が存在した。


「まあ傭兵も俺の考える冒険者とあまり変わらないみたいだけどな」


 ナッズ達の知る知識では冒険者と言う職業は存在せず、同じ様な稼業はこの世界では傭兵と言う様だった。

 傭兵は、言ってしまえば金さえ貰えば何でもする何でも屋みたいなものだった。

 ある国に戦争に参加しろと言われれば金を貰い戦争に参加する。それが侵略戦争だろうがなんだろうが傭兵にはあまり関係無い。

 戦争が終われば次の紛争地へ。

 傭兵は渡り鳥の如く戦地を転々とする。

 同じ敵を殺し合った別々の傭兵団が次の戦争では敵同士なんて事はこの稼業では当たり前らしい。

 ただ、あまり国や地域を跨がない、一国に腰を降ろす傭兵団も一定数存在する様でやり手の傭兵団は各国が挙って大金を積んででも自国に留めておきたい存在らしい。

 一国に腰を据える傭兵団は戦争が無い間は国や街、村等からの様々な依頼をこなして生活の糧を得ているらしく、その様々な依頼の中には魔物退治やら害獣駆除、更には希少な植物の採取なんてものも存在するらしい。

 まさしく俺が思い描く冒険者だった。


「これなら傭兵として悠々自適に世界各地を周って旅なんてのも出来るかもなぁ」


 そうボヤいて幌の布張りの天井を見上げる。

 ドンッと一際大きく激しい馬車の揺れで意識が再び現実に引き戻されて若干の苛つきを覚えた為外の空気でも吸おうと幌の出入口までススと移動する。

 幌の出入り口に掛っていた幕はそのまま上げっ放しだったので中は閉鎖的では無かったが、何だか少し息苦しかったので頭だけ幌から出して大きく深呼吸をしてみた。

 今まで味わった事の無い様な清々しい気分になった。こんなに空気が美味いと感じたのは初めてなんじゃ無かろうか?

 これを味わえただけでも異世界に来た甲斐があったとさえ思えた。

 どんだけ荒んでたんだと自嘲して頭を引っ込めようとした時に丁度馬車の真後ろを歩いていたナッズと眼が合った。


 丁度いい。そう思いナッズに手招きをして近くまで来させた。


「どうしたんですか?ハルさん」


 此奴ら姫様傭兵団には俺はこの傭兵団を雇った依頼主と言う設定を文字通り全員の頭の中に叩き込んでいる。姫様から村の女攫って来いと言われて攫って来たが途中で戦闘になったのにいきなり俺が姫様の元へ行く護衛として雇われている事に疑問さえ感じない。

 何故なら俺が疑問にさえ思わせていないから。

 なので慣れないながらも敬語を使おうとしているのだろうとそう考えると何だか微笑ましくなった。図体がかなりデカいので敬語が全然似合わないのだが。


「あんた達の中に、戦闘時に短剣またはナイフを使って戦うのと魔法が得意な奴っている?」


「んー、居ますよ」


「じゃあ、ちょっと連れてきてくれないかな」


「何かありましたか?」


「いや、ちょっと聞きたい事があるだけで大した事じゃないよ」


 そう言うとナッズは、「分かりました」と後ろへ下がって行った。

 暫くすると二人の男を連れて来て俺に紹介してくれた。


「こっちがナイフ使わせたらウチの中じゃ一番のトイズです、そしてこっちが神聖魔法使いのアルアレです」


 そう言って紹介してくれた二人を親指クイッと突き出して指差す。

 トイズは黒い少しブカブカな感じのするズボンに深緑の腰丈くらいのフード付きの外套を纏っており如何にも役割みたいな出で立ちで、アルアレも黒いズボンだが少し細身のパンツと言う感じのものに膝丈くらいのこれまたフード付きの灰色の外套を纏っていて、職業使に見えなくもない。

 ナッズが口にしたと言う単語が気にはなったが今からどうせその辺も含めて情報を手に入れられるので二人を幌の中に招き入れる事にした。


「じゃあ二人ともちょっと中に入ってくれるかな?少し聞きたい事があるんだ」


 努めて明るい声を出し二人に告げる。

 二人は一瞬目を合わせ頷きあうと荷台の横枠に手を掛けて幌の中に滑り込んだ。


「ナッズ、ありがとう」


 そう言うとナッズは片手を上げて返答としそのまままた少し後ろへと下がって行った。


 あそこがアイツの持ち場って事なのかな


 そんな事を思いつつも幌に呼び込んだ二人に向き直り自然と口角が持上がるのを自覚しながら独りごちた。


「まずはどっちからいこうか」

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