第9話:神聖魔法

「まずはアルアレから話を聞こうかな」


 俺はそう言ってまあ座ってくれと二人を座り心地の良くは無い幌の木板の床を指して着席を促した。


 トイズとアルアレは、何でこんなことになっているのか分からないと言うように、はあと返事をしてこれから何を聞かれるのだろうかと若干まだ疑いながらか床に腰を下ろした。


「まあそう固く成らずに、ただ本当にちょっと聞きたいだけなんだよ」


「まあ時間も有りますし私は構わないですよ」


 アルアレがそう応えるとトイズも同意する。


「ありがとう、まずはアルアレに聞きたいのはこの世界の魔法についてなんだ」


「魔法、ですか?魔法の何を知りたいと?」


 魔法と言ってもちょっと広過ぎますねとやや困った顔をして顎に手をやり俯いた。


「そうだな、俺が知りたいのはこの世界の魔法の概念とか、種類、使い方とか全般的な事かな。知っての通り俺はこの年まで殆ど家から出た事も無く、文字の読み書きとかこの辺の地理くらいしか勉強してこなかったからさ」


 まぁとりあえずそういう事にしておく。

 そう言うと2人はなるほどと納得した様な顔付きで相槌を打っていた。

 後で姫様傭兵団全員にこの情報をインプットしようかと思ったが忘れそうなのでこの場で全員にこの情報を共有させる。


「そうですか、そう言う事なら私に分かる範囲でならお答えしましょう」


 情報の書換えは特に意識する事無く行っている。

 こういう事にしようと思って相手に情報を渡す訳では無く、言った事がそのまま本当の事になるとでも言えば良いだろうか。

 何だかこう言うと何処ぞのネコ科ロボットの道具とか使ってそうな感じだが、敢えて言うがそんなものは使っていない。


「ありがとう、そうだなまずさっきナッズが言ってたけどアルアレは神聖魔法ってのの遣い手なんだよね?」


「そうですね」


「神聖魔法ってのは何?って言うかこの世界には魔法の種類?種別って言うのかな、そう言うのどれくらいあるの?」


「種類ですか…そうですね、まずは私が得意とする神聖魔法、それに精霊魔法、暗黒魔法と言うのが基本的な魔法の種類と言ってもいいかと思います」


「へー、三種類しかないんだね」


 意外と少ないんだなと思いアルアレへ相槌替わりに思った事を口にする。


「いえ、大別するとその三種類と言うだけで、そこから派生した魔法も多数存在します」


「例えば?」


「例えばこの辺りに遣い手はたぶん居ないですが、特殊な紙や巻物と言った媒体に魔法を付与して使用する符術なんて物もあります。」


 ほぅ、符術とな…

 なかなかに興味深い


「原理等は詳しくは分かりませんが、結局は神聖魔法や精霊魔法、暗黒魔法のを媒体に閉じ込めておくと言う事なので派生と言う事になります」


「なるほど」


「更には龍種ドラゴンが扱う魔法なんて物も有ります、これは人族や他の種族には決して扱う事の出来ない龍種特有の魔法ですが、魔法の種類と言うならこれも入るでしょう」


 はい!ドラゴン来ましたぁぁぁぁっ!!!!

 マジかよ!やっぱり居るのね!ドラゴン!

 俺は常々思ってるんだよ

 剣と魔法のファンタジーでは無く、何故、剣と魔法とドラゴンとでは無いのかと


 それは兎も角、ファンタジーのお決まりとは言え、興奮せずには居られない。

 そんな興奮を感じ取ったかどうかは分からないがアルアレは続けた。


ドラゴンなんて私は見た事有りませんし存在するかも怪しいですけどね」


「え、そうなの?」


「はい、太古の昔に存在したなんて伝承は残ってはいますが実際遭遇しただの見ただのと言う話は大体が嘘か翼竜や亜龍の見間違いですよ」


 いやいやいやいや!そんなの分からねえじゃないか!

 居る事の証明は出来ないとしてもそれと同時に居ない事の証明だって出来ないだろうがっ!

 だったら居るかも知れないじゃないのっ!!


 更に興奮して鼻から荒い息を噴き出してしまいそうになった。


「ま、まあその辺りは置いておいて魔法と言えば今述べた三種類と覚えておいて良いかと思いますよ」


 アルアレはそう言ってコホンと一つ咳払いをして気持ち背を正して次の話題に入る。


「後は神聖魔法について、でしたか」


「うん」


 とりあえず不満をこれ以上表には出さずに俺は相槌を打つ。


「神聖魔法とは、偏に神の御技をこの世に体現する魔法の事を指します」


 お、おう、神と来たか


 少し予想外の回答だった為若干面食らってしまったが俺はアルアレに続きを促す。


「神、様…ってのは?」


「?己の信じる神の事ですよ?」


 え、なに?どゆこと??


「えと…人それぞれ信じてる神様は違うと言うこと?」


「…あぁ、貴方はなんですね」


 はぁ、と軽く軽くため息をついてからアルアレは愚痴を零しながらも続けてくれた。


「神徳教育はどんな家庭で在ろうとどんな身分で在ろうと人の親が行わなければならない義務だと思うのですが…いえ、止めておきましょう」


 アルアレはもう一度、ふうと一息吐いてから続けた。


「この世界、と言っても私達が暮らしているこの地上とは別の世界ですがそこには沢山の神々が暮らしています」


「…どれくらい?」


「数え切れません。ですがそうですね、例えば私は戦いの神様である、様を信奉しています」


「はあぁぁっ!?」


「え??」


 突然の俺の発狂にアルアレだけで無くトイズまでもがギョッと目を剥いた。


「あ、いや、ごめん…何でも無いから続けて」


「いや、何でも無いとは思えないのですが…?」


「本当に大丈夫!もう遮りません!」


 これ以上突っ込まれても面倒くさいし強引に話を戻そうとするもアルアレとトイズは訝しげにしている。まあ当然か。


 いや、だってさ…

 カマエルと言えば地球では14万4千もの能天使の指揮官だとか、1万2千もの破壊の天使を率いているとも言われる使

 決して神様ではない

 それにその名だ

 地球では天使、この異世界では神とされてはいるが同じ名だ

 そんな偶然があるのだろか…


「いやぁ、知り合いの名前が出て来たから遂ビックリしちゃってさ!アハハハ!」


「神と同じ名とはそれはそれで不遜ではあると思いますが…まあいいでしょう」


 あ、そうなの?不味ったか?

 でも、マイケルとかも同じじゃないのかな?

 ミカエルと書くと思うんだけど…って、この世界の文字は英語では無いか

 まあ納得してくれたしいいか

 不味そうなら後で都合良く書き換えればいいし


「先程も言った通り、私はカマエル様に遣えています。神聖魔法とは己が遣える神の御技をこの世にさせる魔法です」


「体現とは?」


「そのままです、私が魔法を発動すると神がこの世に降りてきて奇跡を起こす訳ではありません、体現するのです」


「いや、もっと良く分からない…」


「そうですね…例えば事の出来る神聖魔法が有ったとして、同じ神に遣える者は基本的には同じ魔法を扱えるのですが――」


 あゝ、何となく言いたい事は分かった

 つまりはその神の奇跡とやらが起こった時の事象や結果のみを扱えるって事ね


「――その二人が同時に同じ神聖魔法を使った場合、貴方が思っているであろう神が直接この世に降りてきて奇跡を起こすでは矛盾が生じてしまいます」


「同時にまったく同じ神を信仰している者がまったく同じ奇跡奇跡を体現する――」


 アルアレの言葉を俺はそのまま続ける。


「――すると、神様が直接降臨でもしてその奇跡とやらを起こしたとしたら、体現している正にその時はその神様が同時期に同じ場所に現れているって事で、神様二人いるじゃーんって事になっちゃうって話?」


「…貴方は物分りが良いですね。そうです、その通りですが、神はとは数えません。神はと数えます」


「あ、はい、すみません。でも神様だったら同時に同じ奇跡を起こすなんて出来そうですよねー」


「…貴方本当に無学ですか?何故そう思うのですか?」


 ヤベッ警戒されてる?


「いやだって神様だよね?凄い奇跡を起こせるんだからだって起こせるんじゃない、かなぁ…なんて…ハハ」


「なるほど確かにそう言った考え方も出来ますね、ただ残念ながら神聖魔法とはそうでは無いのです」


 そういってアルアレは少し姿勢を正す。


「神聖魔法を扱うには日々祈り、神と対話し、その神が望むであろう善行を行いを積み、扱いたい奇跡を体現させるだけので非ねば駄目なのです」


 魂、ね…


「それは一朝一夕では成らず、日々の研鑽が必要ですし、そうして魂をより神が望む形へと変えて行き神に認められて初めて奇跡を扱う事が出来るのです」


 そこまで一気に捲し立てアルアレは若干光悦した表情を浮かべてふぅと一息入れた。


「神聖魔法がどういった物かは分かったけど、仮に俺がとある神様を信仰していて奇跡を体現出来るだけの魂を持っていたとして、どうやって神聖魔法としてその奇跡を発動するの?原理は?」


「私は先程神にその魂が認められて初めて奇跡を体現出来ると言いましたが、教えて貰えるんですよ」


「ん、何を?」


「神から魔法名を、です。」


 うそーん!本当かよ!?そんな事って有り得る訳!?

 神様がある日突然、「お前よく頑張ってるな!今日からファイヤーボール使っていいぞ!」なんて言ってくるのだろうか…

 ありえないだろ…


「…」


「実際に其れを体験しないと分からないでしょうが、ある日突然、その奇跡を起こす為の魔法名が神との対話の中でのです、それはつまり神からの掲示であり神に魂の有り様が認められた事に他ならないのです」


「でもそれだと魔法名が分かれば誰でも使えるんじゃ?」


「良い所に気付きましたね、ですか残念ながらそれは不可能です」


「…何故?」


「魔力ですよ」


「魔力、ですか」


 あまりピンと来ない。


「魔法を発動する際は魔力を使って発動し魔力を使い祈るのです、日々の神との対話も同じです」


「あ、なるほど!そう言う事か!」


 つまりはみたいなものなのだ。

 日々の対話でアカウント作成の申請をして審査を受け、承認されるとその魔法名と言う名のアカウントが発行される、そして使用する際には発行されたアカウントと魔力と言う名のパスワードを用いる。

 これが神聖魔法を使用する為のプロセスなのだ。


「お分かり頂けた様で何よりです」


 そう言ってアルアレはニコリと微笑んだ。

 この人本当に傭兵なのだろうか。

 俺の中でのファンタジー世界の傭兵のイメージは金の為なら何でもする。人殺しに慣れている。無学・無教養者な者が殆どで身分が低い者がなると言う殺伐としたものだ。

 けれど目の前のアルアレは神に遣えているとの言葉通り人を殺めたりしそうに無いし、教養も有りそうであった。


 まあ色々事情があるのだろうと自分を納得させて次の質問に移る。むしろこれが聞きたい事の本命だとさえ思っている。


「ただ、一つよく分からない事があるんだ」


「なんでしょう?」


「魔法発動の際に魔力を籠めて祈るって部分。魔力を籠めるって具体的にどうやるの?イメージが付かないんだけど」


「「えっ!?」」


「え?」


 アルアレにトイズまでもが素頓狂な声を上げて俺を凝視する。


 あれ…?何この反応

 実家ではそう言う魔力操作等は教わって来なかった可哀想な坊や的な反応になると思っていたんだが…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る