第3話
日曜日の夕方。
「おお、赤羽根くん。やっと来たのかい」
「こんばんは、警部。早いですね、予告の時間は深夜なのに」
「いや、早いに越したことはあるまい?」
「みなさん揃いましたね。では行きましょう」
星野氏に促されて、
「これが最終確認です」
そう言って扉を開く星野氏に続き、赤羽根探偵と辺周警部の二人も、絵画の飾られた部屋へ入っていきます。他の刑事たちや蘭華助手は、手前の部屋に残りました。
「大丈夫、この通り絵はここにあります。この後は一晩、誰も立ち入り禁止です。それこそ私でさえも」
奥の特別展示室は厳重に施錠して、星野氏も含めて全員、手前の部屋で見張ることになりました。
星野氏が提案した警備プランですが、前回の訪問時に赤羽根探偵も聞かされており、異存はありません。分厚い扉を開け閉めしないことが最大の防御になる、と彼も考えていました。
狭い奥行きで圧迫感もある部屋に、結構な人数が集まって、長い夜が始まりました。
星野家の使用人が夜食のサンドイッチを差し入れてくれるので、それをつまみながら、夜通し目を凝らすのです。
これだけの人数で見張る以上、怪盗が現れれば一目瞭然でしょう。
最近、彼女の盗難を未然に防ぐことも多くなってきたので、赤羽根探偵は余裕すら感じてしまいます。これではいけないと自分でも思ったところで、横から辺周警部が話しかけてきました。
「どう思うかね、赤羽根くん。フラワー・シーフの真の狙いは宝石かもしれない、と少し心配なのだが……」
高価な美術品も標的とする彼女ですが、最初の頃は宝石ばかり狙っていました。初心に返るならば辺周警部の気持ちも理解できますが、赤羽根探偵は首を横に振ります。
「宝石があるのはこの屋敷ではなく、店の方でしょう?」
「だから、警察をこちらへ
「そんな姑息な手段、フラワー・シーフらしくない。第一、店にも盗難対策がされているし、特にフラワー・シーフの名前が出た時点で、いっそう厳重になっていることでしょう」
宝石狙いの可能性を考えた以上、辺周警部も何人か部下をそちらに配置しているはず。それは赤羽根探偵も承知していました。
「大丈夫、たまたまです。たまたま宝石商が絵画コレクターだっただけです」
そう言って辺周警部との話を切り上げて、赤羽根探偵は視線を反対側へ向けました。
隣に座る蘭華助手が少し前から妙に静かなので、気になっていたのです。
一瞥しただけで、こっくりこっくり頭が揺れているのがわかりました。大事な見張りなのに、居眠りしているようです。
まだまだ彼女は半人前だ、と赤羽根探偵は呆れるのでした。
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