第五章 遺愛 2

 捜査本部に戻った田中と元平は、村越の現状を多田に説明を受けていた。


「村越の供述によると、彼女は宇根元から心身ともにパワハラまがいのことを受けていたらしい。その内容を例の掲示板に書き込んだところ、ある人物からアドバイスを受けたそうだ。その内容は小さな仕返しをしましょうといったものだった。その相手の用意した、とある薬品を宇根元の食事などに少しずつまぜて、彼が体調を崩し今回の仕事を降板する羽目になれば少しは気が晴れる。そう言われて、それを実行したそうだ。実際、宇根元は最近体調不良を訴えるようになり計画はうまくいくと思った矢先、彼は突然亡くなった。自分の飲ませていた薬品のせいだと思った村越は自分も死のうと思いその薬品を大量に飲んだが死ぬことは無かった。掲示板で知り合ったその相手の素性は何も知らないということだ。掲示板の管理会社にこれも調べさせているが、そいつを特定するのは難しそうだな。稲生きよみとの関係も問いただしたが、今回の仕事で初めて会ったと言っている。俺の受けた感じでは嘘は言っていないように思った。共犯の線は薄そうだ」



「そうでしょうね。共犯なら村越が服毒自殺を図ったことがおかしくなる。自分の持っている薬品で死んだと思ったから自分もそれで死のうと思った訳ですから。二つの薬品が合わさった時に毒性を発揮するこの仕組みを村越は知らなかった。稲生きよみも宇根元に何らかの恨みを持っていて、同じ経緯で薬品を手に入れ、何らかの方法で宇根元にその薬品を窃取させた。稲生は村越がすでに宇根元に薬品を飲ませていたことを知った上でやったのか?」


「田中さん。それは違いますよ。水尾さんの話しによると稲生きよみは焼身自殺を図ろうとした際、「殺してしまった」と言っていたそうですから、殺す気ではなかったということでは?」


「それと田中、お前の同僚からの新情報だ。警視庁からの報告で深井繁と熊手智也はある記事の掲載についてかなり言い争っていたという話しがあるそうだ。その記事というのが朝比奈由衣のゴシップ記事らしい。確かな裏の取れていないその記事を深井は強引に掲載しようとしたが、それを熊手が猛烈に批判していたという話しが二人の同僚から出ている。さらに言うと、その熊手は宇根元と彼の書いた記事によって訴訟問題になるほどもめている。その記事の内容というのが彼の動物虐待に関するものだ」


「何か、少しずつ繋がってきましたね。その裏で「ニヒツ」が絡んでくるのか。他の被害者とニヒツの接点を見つけましょう」元平は力強く言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る