第四章 偏愛 3
田中は岐阜に向かう車中で、今回の事件の捜査資料を眺めていた。
写真の暗号らしき物の解読方法を見つけ、解き明かした内容はある地名だった。
後にその解読方法を書く。
7782ー65ー2(1)・・・モノゲルマンの一文字目「も」
107ー13ー1(6)・・・アクリルニトリルの六文字目「と」
7647ー01ー0(4)・・・塩化水素の四文字目」「す」
917ー61ー3(1)・・・シアン酸ナトリウムの一文字目「し」
543ー21ー5(14)・・・アセチレンジカルボン酸アミドの十四文字目「み」
8014ー95ー7(2)・・・発煙硫酸の二文字目「つ」
8014ー95ー7(1)・・・発煙硫酸の一文字目「は」
7803ー49ー8(5)・・・ヒドロキシルアミンの五文字目「し」
「も」「と」「す」「し」「み」「つ」「は」「し」
本巣市三橋。岐阜県にその地名があった。
田中はその暗号を見て考えていた。簡単すぎる。ネット社会の現代では、劇物だとしても調べればこれぐらいのこと誰でも見つけることができる。解けることを前提に作られた暗号だ。これを送ってきた奴は「これぐらい簡単でしょう」と言っているように思える。恐らく試している。ふざけた奴だ。
岐阜県本巣市三橋に到着した篠原と田中は、付近の住民に写真を見せて場所を訪ねたが、あっけないほど簡単に見つかった。
「ああ、そこの公園に一ヶ月程前にその物置が置かれているよ。公園の掃除道具入れかなにかじゃない?」
通りかかった主婦に尋ねると何事も無かったかのように教えてくれた。
その公園に向かうと、確かに端の方の少し人目に付きにくい場所にその物置はあった。
近付いてクルリと周りを回って確認してみたが、何処にでもあるような物置だ。
扉に手を掛けてみて軽く力をかけてみるが、鍵がかかっているようで開かない。
篠原は内ポケットから小さな鍵を取り出すと、田中に目配せしたあと鍵穴に差し込みゆっくりと回した。
カチリと音がして鍵が開いた。
少し開いてから、中を覗きこんだが、見た感じ何も入れられていないように見えた。
篠原が大きく扉を開くと中央に備え付けられた棚に何か紙のようなものが置かれていることに気が付いた。
田中が手袋をはめてその紙を持ち上げてみた。
そこにはこう書かれていた。
「こいつらの悪事は裁かれるべき。反省させるお手伝いをわたしがしましょう」
そう書かれたメッセージの下にはURLが書かれていた。
田中は自分のスマホを取り出して、そのURLを打ち込んだ。
その表示された画面を篠原に向けて見せた。
「篠原さん、恐らく被害者、もしくは加害者がこのサイト繋がりということでは?」
田中が見せたその画面にはある掲示板サイトが表示されていた。白一色の画面の中央に入り口と書かれたボタンだけが表示されたトップ画面で、タイトルには「掲示板」と書かれているだけだった。
田中は入り口というボタンを押して中に入ってみた。サイトの中身もシンプルなもので、ズラズラと恨みや妬みのような愚痴が延々と書かれているだけの物だった、スクロールしていくつか見てみたが今回の事件と関係しそうなものは無さそうだった。
「この中から関係のありそうなものを見つけるのは相当骨がおれそうですね」
田中は頭を掻きながら言った。
「このメッセージを置いた奴は明らかに挑発しているな。手がかりを提示して捕まえてみろといっているようにも思える」
「俺が感じていた、この犯人に対するイメージもそんな感じですね」
「一旦本部に持ち帰って、専門の人間にやってもらった方がよさそうだ」
「確かにそうっすね」
そう言った田中は何か違和感を感じた。田中は紙の置いてあった棚の裏側をそっと覗きこんだ。
それを見た田中は汗が噴き出した。
田中は入り口付近に立っていた篠原を突き飛ばした。
「なっ、お前なにを」篠原は地面に這いつくばった姿勢で田中を見た。
凄まじい轟音とともに物置が吹っ飛んだ。
そのあまりに強烈な勢いで篠原は吹き飛ばされた。
篠原はしばらく立ち上がれなかった。五分程仰向けに倒れていた篠原は、ハッと我に返ると周りを見回して田中の姿を探した。
物置があった場所には何も無くなっていた。
「田中!」篠原は大声で叫んだ。
「ここっす……、先輩」
その声がした方向を見ると、先程まで物置の天井だったものが、公園の遊具の上にあった。その屋根の陰から田中が姿を現した。
「お前、大丈夫なのか?」篠原は痛む身体を引き摺りながら田中に歩み寄った。
「篠原さんを突き飛ばした瞬間に屋根をつかんで逆上がりの要領で上に乗ったんです。そのまま吹き飛ばされました。いててて、どこか折れてるかなこりゃ」
「お前、あの瞬間に咄嗟にそんなこと……。ほんと、大した奴だよお前は……」
「むちゃくちゃしやがる。毒物に続いて爆発物。何なんだこいつ」田中は遊具から降りながら愚痴った。
「俺じゃなかったら死んでましたね」田中はいつも通りのにやけた表情で言った。
「本当に、お前って奴は……」篠原は田中を見つめてそう言ったあと、安堵の笑みを浮かべた。
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