第二章 嫌忌 4
東京都目黒にある焼き肉店のトイレで男性の死体が発見されたと通報があり捜査一課刑事の
「トイレで男性の死体って」
「だから俺達に行けってことだろ」
篠原はハンドルを握り視線は前方を見てはいたが、頭では先週の事件を思い返していた。
ちょうど一週間前、東京都秋葉原の居酒屋のトイレで男性の死体が発見された。亡くなっていた男性は出版社に勤めていた
「これで、殺しの線が出てきたな」
篠原は舌打ちをした。
「殺しだとしても、死因がはっきりしないなんてことあります?」
田中は助手席で自分の携帯を見ながら言った。
「お前さっきから何調べてんだ?」
「被害者が努めていた出版社って、あのゴシップで有名な週刊誌出しているところですよね。最近の記事に今回の二人が何か関係してないか調べてたんすけど」
「で、何かあったのか」
「記事を書いた記者名の欄に、秋葉原の男性の名前はあるんですけど、さっき聞いた目黒の方の男性の名前は無いですね」
「秋葉原の男が書いた記事の内容ってのは何なんだ?」
「売れっ子芸能人の裏の顔みたいな記事ですね。まあ、こんなことばかり書いている雑誌なんで、今回の件と関係あるかは微妙なところっすね」
田中が話し終わるのとほぼ同時に車は現場に到着した。
先に到着したパトカーの赤色灯につられて、既に野次馬があふれかえっていた。その人混みを搔き分けて現場の焼き肉屋が入っている商業ビルの入り口に小走りで向かった。
既に鑑識も到着していて現場検証は開始されていた。
「事件?事故?どちらだ?」
篠原は語気を強めて現場の捜査員に尋ねた。
「外傷はありませんね。病死ということも考えられますが検死待ちになりそうです。やっぱり秋葉原と関係あるんですかね?」
「ある方に分がありそうだな。現場の状況、身元、関係ないと考える方が無理がある」
「秋葉原の方は司法解剖しても死因が判明しなかったんでしょう?これはやばいな。マスコミになんて発表します。被害者が出版関係なんで隠し通すのも無理でしょう」
田中の言っている事の中身自体は真っ当なものだが、その態度がふざけているように見えてしまう。そのせいもあって、刑事という職業に向いているかと言われれば首を傾げるしか無い。
「田中さん、なんか楽しんでいるように見えますけど」
後ろから声を掛けてきたのは同じ捜査一課の刑事
「早かったな。
東出は篠原と同期の刑事で、小荒井とコンビを組んでいる切れ者だ。
「それが、たまたま先週の秋葉原の男性の話を聞きに、勤め先の出版社に来ていたんですけど、東出さんはまだ話しを聞きたいことがあるので、先にお前は現場に向かっておけってことで」
「そうか、そういえば出版社は目黒にあるんだったな」
目黒で発見された遺体の身元は
「この、科学が発達した世の中で死因が特定できないなんてことがあり得るのか?」
篠原は捜査資料を見ながら呟いた。
「超能力で殺したとか?」
そんな篠原をからかうように田中が声をかけた。
「そうかもな」
「いや、篠原さん冗談っすよ。そんなことあるわけ無いでしょう?」
「いや、人間には見たこともないような力が秘められているからな。そんな能力を持った人間がいてもおかしくない」
「篠原さんも、見た目と違って考え方が柔らかくなったんすね」
「刑事としてはどうかとは思うがな。信じられない能力を持った人間がいることを知ったら、考え方を変えざるを得ないだろう」
一年程前に起こった特殊な犯罪を解決したのが、ある人間の持っていた常人を遙かに上回る能力だったことを篠原はことあるごとに思い出していた。その出来事から、先入観で捜査することの危うさにも気付かされた。その特殊な能力が無ければ間違い無く解決できていなかった。
そう考えると、あり得ないことなんて無いと考えて捜査をしなければ、解決出来ない事件もあるのだと思い知らされた。
「そうとはいえ、昔ながらの捜査に意味が無いわけではないからな。まずは人間関係をあらうのと、何か殺される要因になる物が無いか、家宅捜査を徹底的にするぞ」
「分かってますよ。じゃあ、今回の被害者の自宅を調べるところから始めますか」
田中は背伸びをする姿勢をしてから勢いよく立ち上がり上着を掴んだ。
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