第二章 嫌忌 3

 里田ひとみの遺体が見つかった翌日、大阪府警に新たに女性の遺体が見つかったと連絡が入った。


「どないなっとんねん。ここんところ平和やったのに突然忙しなってきたな。二日続けて死体とは」


「水尾さんそれが大変なことになってまして」


「なんや?」


「発見された遺体の身元は朝比奈由衣です」


「はぁ?なんやと」


「発見されたのは中央区宗右衛門町にあるバーのトイレで、洗面所に突っ伏して死んでいるのを店員が見つけたそうです。消防が駆けつけた時には既に息はしていなくて、検死の結果、里田から検出された新型の毒物と同じものが検出されました」


「同一犯ということか?」


「恐らく」


「里田を殺害したあと、自らもその毒物を飲んで自殺と言うこともありえるな」


「それが、バーの店員によると、彼女一人ではなくて連れがいたみたいなんです」


「で、そいつは名乗り出ていないと」


「そういうことです」


「そいつが真犯人っちゅうことか」


「まず、そのバーの店員に話しを聞いてから、朝比奈の住んでたところを調べてみるか。その連れの情報が何かしら出てくるかもな」



「連れの方は女性でしたね。お二人とも凄くお綺麗な方だったので覚えています。長い黒髪で眼鏡をかけておられました。身長は高めでモデルさんみたいでしたね。亡くなられた方の女性は少し興奮気味に話されてましたけど、それも最初だけで、その後は仲良さげに話しておられたように思いますが」


「その二人がこの店を訪れたのは初めてですか?」


 元平がいつもの柔らかい感じで尋ねる。


「亡くなられた方の女性は何度かご利用になられていますが、黒髪の方の女性は今回が初めてだったように記憶しております」


「ということは、店の客に聞いても無駄そうやな」


「また何か有りましたらご協力お願いします」

 

元平は頭を下げて、先に店を出た水尾を追った。



 朝比奈由衣は吹田市のマンションに部屋を借りて一人暮らしをしていた。


「やっぱり、芸能関係ってのは儲かるんですかね?なかなか高そうなマンションですよね」


「そら、ピンからキリがあるやろ。売れっ子だったみたいだな。俺達公務員には縁が無さそうな部屋やな」


 一人で暮らすには広すぎる部屋を見回しながら、水尾は白い手袋をはめて机の上に置いてある郵便物の束を掴んだ。


「岡山から送られて来ている郵便物が多いな。生まれは岡山か?実家の家族からの手紙みたいやな」


 そう言いながら何通かのはがきや封筒を確認していた水尾の手がある郵便物で止まった。


 その郵便物には送り主の名前が無く届いたのは一昨日のようだ。封筒の封は切られていたので中身を見ると何枚かの写真と小さな鍵が入っていた。


「なんや、これ」


「どうかしましたか水尾さん」


「いや、妙な郵便物があってな。風景の写真が数枚と小さな鍵が入っとる。送り主の名前が書いとらん」


「何処ですかね、この写真。小さ物置みたいですけど、こんな物ならどこにでもありそうですね。もう一つはこれは公園の遊具か何かかな?この鍵は、物置の鍵ということなんですかね」


「それに、この最後の写真はなにか数字の書いた紙が写っとる」


 その写真には沢山の不規則な数字が書かれた紙が写っていた。


「暗号か何かやろうな。この暗号を解いたらこの場所が分かるみたいな感じか。今度の事件に関係あるかは分からんが、ほっとくわけにはいかんな」


 引き出しや洋服ダンスなど一通り調べたが、これといって事件の解決に関わりそうな物は無かった。


 広い部屋の割には物が少なく生活感の乏しい感じがした。寝ているだけといっても良いほどの生活感の無さだ。


「その他に、手がかりになりそうな物は無さそうっすね。後は鑑識に任せますか」


「そうやな、ここは本職に任せて、なんとかこの写真の場所を突き止めるか」


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