第3章 妖精の里 ①
西の方向に町らしき影を認めてから随分歩いたような気がする。が、みんなの希望に反して行けども行けども砂の海が続くばかりだった。
「もしかして、あれが有名な蜃気楼なのかなぁ?」
セフィルが声を上げる。緊迫感のかけらもない脳天気なその声に、サマードはピクリと頬をひきつらせた。
砂漠に出て三日が過ぎた。地図によると次の町まで大した距離もなく、砂漠を渡ってきた旅人の話を聞くにも、たやすく乗り越えられるとのことだった。それを信じて、彼らはそれなりの支度しかしていなかった。
そして、気がつけば砂漠のど真ん中で迷子になっていたのだった。
何がいけなかったのか、思い当たる節は思いっきりあった。
「あーあ、セフィルとサマードの責任だね。いきなり喧嘩なんてやってるから、方向を見失ったんだよ」
マルスが、ためらいもなく言ってくれた。言い返そうにも、それが事実と自覚があるため、サマードは小さく舌打ちして視線を逸らした。
遠く、砂漠の向こうに大きな町が揺らめいて見えた。
* * *
「仕方がない。今日はここで休むとするか」
肩に背負った荷物を砂の上に置いて、そう言ったのはエドガーだった。仲間の疲労を素早く読みとっての、早めの判断だった。
「ふーっ」
旅慣れていないマルスが、一番に座り込んだ。続けてリオンが背に負った荷を降ろす。
「しゃあねぇか」
本当は自分も思いっきり疲れているが、そになことはおくびにも出さずに空元気のサマード。
日の高いうちは暑さも厳しいが、砂漠の夜は異常に冷え込む。能率良く寝所を作り上げると、ようやくセフィルが腰を降ろした。
「おめぇ、元気だなぁ」
呆れたようにサマードが言うのを、セフィルは笑ってやり過ごした。そして明日の段取りをと、エドガーの隣に座り込む。そんなセフィルの姿をちらりと見やって、ポツリとマルスが呟くのがサマードの耳に入った。
「すっかり逞しくなっちゃったよなぁ」
見ると多少唇を尖らせて、顔を膝に埋めていた。
そう言えばマルスはセフィルとは幼なじみだと言っていたのを思い出す。セフィルが村を出て、旅を始めて、エドガーとはその途中で出あったのだとサマードが聞かされたのは、初対面の日だったような気がする。
「何か、つまんないなぁ」
ゆらゆらと、ランプの明かりがマルスの白い横顔を照らし、一層青白く見せていた。こいつもセフィルと同じ種族なんだと、改めて思った。
行く宛も定まらない、この奇妙な道連れに、それでもサマードはようやくにして仲間意識を持ち始めてきていた。
◆ ◇ ◆
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