白と黒の意志
建物の倒壊を躱した【オルトデューク】は【クライシス】を一瞬だけ
シゼンは、その一瞬を今までの戦闘経験から、敵が見失っていると捉えて敵機の側面に回り込むとバズーカを放つ。
しかし、ノートは読んでいた。
速度は【クライシス】が上。ならば、こちらの火力と機動力を削ぎに来るはずだと。
難なくバズーカの弾頭を躱し、振り向き様に“爪”を薙いだ。【クライシス】は“爪”の間を背面飛行のまま綺麗にすり抜けるように躱す。
バズーカは外れたが、シゼンはさほど焦っていない。それどころか、今の攻撃は当ればラッキー程度の牽制だったのだ。
外れた弾頭は、落雷を受けて二機の側面で爆発する。
「避けきれまい」
【オルトデューク】の背部に装着されている武装パックの表面が開き、無数のミサイルが【クライシス】に飛来する。弾頭は棘の様に黒いコーティングが施されていた。
全部で25発……距離が近すぎる――
今飛行している場所は左右の建物が邪魔で有効な回避行動がとれない。シゼンは可能な限りアサルトライフルで撃ち落とすが、
「弾切れ――」
アサルトライフルが弾数切れで、弾倉の交換を警告していた。黒いミサイルが迫る。数は10発も減っていない。
「できれば、コレは使いたくなかったけどな――」
シゼンの意志に呼応する様に、モニターにノイズが流れ、次の瞬間に数字の羅列が高速で荒れ狂う。そして、その中からいくつかの単語が選別され、メインモニターに並べられた。
『ACT2 Shield of Aegis』
【クライシス】の純白の装甲表面に流れるように光が走った。そして、飛来していたミサイル20機が手前で全て粉々に破壊される。
「――
退きながら致命傷を避けていたが、『Shield of Aegis』が発動した時点で、【オルトデューク】の飛び道具は全て無力化された。警戒するのは黒腕の“爪”のみ。
バズーカを捨てる。ハイブリットソードを抜くと、再び“爪”を展開し始めた【オルトデューク】へ接近し、すれ違いざまに頭部を斬り裂く。
「――ッチ! やっぱり『Shield of Aegis』の発動中は速度が落ちるか!」
【クライシス】の一閃を【オルトデューク】は反応していた。ギリギリで降下ブーストが間に合い、地面に激突しながらもハイブリットソードに狙われた頭部の破壊は回避したのである。
「…………所詮は人の技術か」
ノートは背部の武装ユニットと肩部衝撃砲をパージして捨てる。
残りの武装は右腕の“火”と左腕の二連装熱線砲、追加装甲に内蔵されているマイクロミサイルのみ。だが、
「軽くなった分、速度はそちらとは同等だ」
切り返すように【クライシス】は再び向う。ソレを迎撃する様に【オルトデューク】の追加装甲の表面が開き、無数のミサイルを発射された。その表面には黒装が施されている。
【クライシス】は向かって来るマイクロミサイルを針の穴に糸を通す様に抜け、一直線に【オルトデューク】を目指す。
『Shield of Aegis』の発動中は機体速度が著しく落ちる上に、奴の武装の“爪”は防ぐことが出来ない。
火力差は歴然だ。故に、シゼンは受けに徹する事は意味が無いと『Shield of Aegis』を一時的に停止していた。
加速。緩和しきれない重力が、コアの中に居る
「落ちろ! “
魂の叫び。人類だからこそ、人間だからこそ、感情を持った人だからこそ、抗うのだ。それが――
白銀の尾を引きながら後塵に残像を残す【クライシス】に【オルトデューク】は二連装熱線砲を向け――発射した。【クライシス】の速度を落とす事が狙いの一射である。
オレンジ色のレーザーが【クライシス】へ向かう。速度としてコンマ数秒の世界で、シゼンは最後まで駆け引きをしていた。
直進しながら一度だけ
既に攻撃距離。機体の回転と同時に背部固定の
「終わりだ。これで役割を果たせ。“
決められている事だと言いたげにノートは審判者の如く冷やかに告げた。そして――“爪”と“大剣”が接触する。
【クライシス】は最後まで躱せるタイミングをギリギリまで取ったため、“爪”によって左のデュアルカメラを破壊される。
【オルトデューク】は二連装熱線砲を“大剣”に貫かれ、左腕部の機能停止を引き起こす。
二機が接触した刹那、落雷が“大剣”と“爪”に落ちる。爆発と同等の衝撃が機体間で爆ぜる。
「くっ……お……」
「うぐぅ……」
衝撃によって強烈にコア揺さぶられ、シゼンの意識は、そこで途切れた。
【クライシス】はバランスを崩し、コントロールを失った
【オルトデューク】は、その場の背後にある建物に叩きつけられるようにめり込んで停止し、落雷の電熱で装甲の一部が溶着する。
二機の
積乱雲に包まれ、雷鳴と暴風が吹き荒れるロラ。その都市の中央から少し西にずれた一角――【クライシス】と決定的に交えた場所で【オルトデューク】は沈黙していた。
衝撃によって叩きつけられた為、建物に背からめり込む様に停止している。僅かなシステムの補完機能だけが作用しており、淡く光が灯っている程度であった。
どれほどの時間が経っただろうか。すると【オルトデューク】が息を吹き返す様に動き出す。
次の瞬間にデュアルカメラに強い光が宿った。
「――――再起動完了。これほどの
ノートは状況を確認する。二連装熱線砲を装備した左腕は使用不可。しかし機体性能は何も損傷していない。
ジャナフIIIも無事であり、左腕は使えないが、
ガコッと脱皮の様に溶着した追加装甲を全てパージしながら立ち上がる。ジャナフIIIで浮き上がると、残りの追加装甲も滑り落ちるように落下した。
スマートな外見になった【オルトデューク】は、初期装備である右腕だけは何も変わらない特徴として存在している。
「
仕方ないとは言え、ここまで武装を削れば【クライシス】の方が火力はある。しかし、索敵した結果、過の機体はロラの端で停止して動いていない。
「終わりにしよう」
【クライシス】の停止している方へ機体を向けると、自らの言葉を実行する為に
お父さん――
その声にオレは振り向く。娘と息子が手を振りながら、笑顔でオレを見ていた。
「おう」
オレも手を振り返す。すると、二人は走って来ると抱き着いてきた。
二人の温もりが伝わる。オレを“人”にしてくれた、本当に優しい温もりだった。
ずっと、世界が狂って見えていた。だから、こうして
命を賭けるに値する“未来”が目の前にあった。
二人は海が好きだった。だから浜辺に近い場所に家を買って、海と共に育てた。
昔の部隊の仲間も身内も誘って、よくパーティーをした。除隊した後はアステロイドを使って作業場で働いたし、良い父親になれたと思う。
毎日が本当に幸せで……まるで夢の中に居るんじゃないかと……思う度に、子供たちの温もりでソレが現実であると認識していた――
気を失ったシゼンの居る【クライシス】のコアでは最低限の索敵だけが成されていた。
そして、レーダーが敵機の反応を捉える。
ピッピッピッ、と音を立てて接近を知らせるが、シゼンは深く気を失っているのか目覚める気配は無い。
レーダーの反応はどんどん近づいてくる。
ピッピッピッ――
そして……【クライシス】の存在を視野で捉えたのか、レーダーの敵機は探すような蛇行から、一直線に自機へ近づいて来る――
雷鳴が響き、稲光で周囲が照らされた。
【クライシス】が壁に寄りかかる様に倒れ、気を失ったシゼンに呼応する様に機能を停止している。
【オルトデューク】は、数千℃の熱を纏ったためにオレンジ色に発光している
「“星の聲”に耳を傾けているのか? だが、人ではここまでだ――」
指部を閉じ、水平に手刀を向けるように黒腕を【クライシス】へのコアへ――
「さらばだ、“星の剣”。さらばだ……我が親友――シゼン・オード」
どうにもならない、勝敗を決する一撃が【クライシス】を貫く――
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