地上の星
本屋から出ると雨が降っていた。大雨の一歩手前くらいの弱さだ。
母さんが朝に傘を持って行きなさいと言っていたのに。しくじった。
買ったばかりの文庫本を濡らすのが忍びない。俺は雨が止むのを軒先で待つことにした。
なんとなく灰色の空を見上げる。大学に入って、キャラ作って髪を染めて友達ができて、バイトして、充実しているはずなのに、埋められない虚しさがある。
地面を駆ける音とともに、横腹に衝撃が走った。空を見上げていた俺はその場に尻もちをつく。
「わっ!ごめんなさい。大丈夫ですか?」
星の髪飾りをつけた女の子だった。桜色のロングスカートの裾が濡れている。彼女も雨宿りか。
女の子の髪飾りに目が引き寄せられる。
「星が、好き、なんですか」
「えっ?」
「髪の…」
「貰いもので、私が好きなわけでは……でも、そうですね。好きです」
「俺も星は好きです」
まずい、と思ったが俺の舌は止まらなかった。
「誕生日とかの黄道十二星座ってあるでしょう。十二星座は観測時期と、誕生日が数か月ずれてるんですよ。例えば蠍座は夏が見頃だけど、蠍座の人は秋に蠍座を見上げることができない。十二星座が作られた時代と、俺たちが見ている空は違うから」
「……」
失敗した。受け答えを間違えた。俺は耳のピアスに触れた。
地味な自分を変えたくて見た目を変えて、こうして話していても、俺は結局ダメな自分のままなのか。星が好きだって知られて、クラス中に笑われたときのままなのか。
「すみません。俺みたいなのが、変ですよね」
「いいえ!」
女の子がぐっと身を乗り出した。一度に距離が縮まって、心臓が高鳴った。
「変じゃありません。全然、変じゃない!言葉にできなかっただけです!—――それに月並みですけど、『いちばんたいせつなことは、目に見えない』って言うでしょう!」
女の子の虹彩は茶色がかっていて、とても綺麗だった。心象の曇天が晴れ渡って、どこまでも澄んでいく。
俺は地上の星を見つけた。
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