短編置き場

鶴川ユウ

Preservation

 茜色に染まった教室で、二人の女子高校生が語らっていた。凛と香織といった。彼女らは自他ともに認める親友だった。

 凛は香織の話に耳を傾けていた。

「ホントマジないわー」

「見る目がなかったんだって」

「だよね!振ったことを後悔するだけの、イイ女になってやるんだから」

 香織は彼氏に振られたと話した。凛は笑いながら励ます。香織は見目がよく、勝気だった。どちらかというと内気な凛は、香織の物言いが気持ちよくて好きだった。

 香織は窓の外を物憂げに眺めた。その唇がちょびっと尖っていた。

 女の子の可愛いところを、男の子はどれだけ知っているのだろう。

 凛は卒業アルバムの表紙を撫でた。本日をもって二人は高校を卒業した。凛は地元の専門学校に、香織は県外の大学へそれぞれ進学予定だ。

 喧嘩もあったけれど、凛は香織との友情が永遠に続くと信じていた。

「また、カラオケ行こうよ」

「服も買いに行こ!凛のセンスいいから、マジで助かる」

「そうかな。ありがとう。楽しみだ」

「ゲーセンでプリクラも撮ろ!」

 少女たちは約束を積み重ねた。

 やがて夕陽が沈みきって、夜の帳が降りてきた。

 香織が席から立ちあがった。別れの時が近づいていた。

「……あたし、凛と友達になれてよかった。卒業したくないくらいに好きだよ」

「香織……」

「また絶対会おう。それじゃあ」

 香織は涙を滲ませて微笑むと、教室を去った。

 凛は一人で教室に取り残され、窓の外を見た。香織は校門を出た瞬間、女子高生からスーツを着た大人の女性へと変わった。

 凛は雷に打たれたように、全てを思い出した。昨日も一昨日も、何年も何年も卒業式を繰り返した。凛は忘れたまま女子高生のまま、大人になっていく香織の後ろ姿を見届けてから、全てを思い出した。

 不変の友情を願ったのは、香織か、凛か―――それとも。

 今宵は新月。明日も新月。凛を閉じ込めたまま、歳月は無情にも過ぎてゆく。

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