君たちの戦い

 いつも乗る路線とは違う電車は快速急行だった。各駅停車の車窓よりも疾く車窓が流れていく。

 今日が大学入試本番で、第一志望校の受験日だ。

 わたしは鞄につけたキーホルダーを握りしめた。一緒に勉強してきた友達と色違いのものだ。受かりますように、受かりますようにと何度も反芻する。

 去年の冬の模試の判定はギリギリ射程圏内で、余裕なんてない。

 落ちて死ぬわけじゃないと頭で分かっていても、わたしたち受験生の脳内はデスゲームのように、発散しようのない緊張で満ちている。

 乗り換えの駅で前の座席に、学ランの男の子が座った。音楽を聴きながら青い英単語帳をめくる手つきはこなれていて、わたしより頭が良さそうに見えた。

 そんな時は自分でまとめたノートを見る。

 積み重ねた時間と精一杯の自信がぐらつきそうな時は、こうして心を鎮めてきた。


 大丈夫、大丈夫だから。


 わたしが降りる駅の名前がアナウンスされ、電車が停まった。

 男の子が痛くなるほど鋭く息を吐き、背中を丸めて立った。

 問題用紙を一斉に翻す瞬間のように、心臓が強く痛んだ。

 ああ、君も戦っているんだ。

 わたしもマフラーを巻き直して、後に続く。

 わたしの、わたしたちの戦いが幕を開けた。



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