君たちの戦い
いつも乗る路線とは違う電車は快速急行だった。各駅停車の車窓よりも疾く車窓が流れていく。
今日が大学入試本番で、第一志望校の受験日だ。
わたしは鞄につけたキーホルダーを握りしめた。一緒に勉強してきた友達と色違いのものだ。受かりますように、受かりますようにと何度も反芻する。
去年の冬の模試の判定はギリギリ射程圏内で、余裕なんてない。
落ちて死ぬわけじゃないと頭で分かっていても、わたしたち受験生の脳内はデスゲームのように、発散しようのない緊張で満ちている。
乗り換えの駅で前の座席に、学ランの男の子が座った。音楽を聴きながら青い英単語帳をめくる手つきはこなれていて、わたしより頭が良さそうに見えた。
そんな時は自分でまとめたノートを見る。
積み重ねた時間と精一杯の自信がぐらつきそうな時は、こうして心を鎮めてきた。
大丈夫、大丈夫だから。
わたしが降りる駅の名前がアナウンスされ、電車が停まった。
男の子が痛くなるほど鋭く息を吐き、背中を丸めて立った。
問題用紙を一斉に翻す瞬間のように、心臓が強く痛んだ。
ああ、君も戦っているんだ。
わたしもマフラーを巻き直して、後に続く。
わたしの、わたしたちの戦いが幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます