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キザなRye

全編

 「スマホばっかりさわっていないで少しは勉強しろよ。」

ぼくがスマホを使っていると必ずと言って良いほど父の口から出る言葉である。これを言われるたびに僕はウザいなと心の中では思っていた。これは自分の人生なのだから好きにやらせて欲しい。言われた後もずっと触っているとまたグチグチ言われるので仕方なく机に向かって勉強するようにしていた。毎日のようにこの流れを繰り返していると父親のせいで僕の自由はなくなっているのだからあんな父親なんて居なければ良かったのにと思ってきた。

 授業中、教頭先生が教室にけ込んできて僕のことを呼んだ。何か悪いことをしたかなと不安になったが思い当たる節はなく、はてなマークを頭にめて廊下ろうかに出た。

「先ほど電話がありましてお父さんが亡くなられたそうです。すぐに病院に向かってください。」

何を言っているのか、全然分からなかった。昨日まであんなに元気でグチグチ言ってきた父親が死んだなんて信じられなかった。悲しいとかどうだとかという感情は何も生まれなかった。それを事実とは思えなかった。

 教頭の車に乗せられて父が居るという病院に向かった。車を降りて病院に入るとエントランスにぐちゃぐちゃの顔をしたお母さんが居た。

「道路を歩いていた…おばあちゃんを…助けるために…身をていして(※1)守って…かれちゃったの…。」

お母さんは言葉を詰まらせ必死に伝えた。これを聞くと本当に死んだんだなと実感してきた。実感はしてきたのだけれども悲しいという気持ちは一切抱いだかなかった。むしろ嬉しかった。これでスマホをいじっていても何か言ってくる人はもう居ないんだと開放感を感じていた。

 それから毎日のように自分がしたいと思うがままに生きた。スマホは肌身はだみ離さず携帯けいたい(※2)し、ゲームとスマホが僕の生活の柱となった。お母さんは父親ほどは強く言ってこないのでゆるい生活が出来た。父親が居るときよりも何倍も楽しい生活を送れた。

 「関口せきぐちくん、最近テストがあまり取れなくなってきてるよね。お父さんがお亡くなりになって悲しいとは思うけど勉強も頑張ろう。」

担任の先生からこう言われてしまった。少し前までは80点は切らない程度の点数が取れていたが、今は80点が取れたら凄い方で50点から60点あたりが通常だった。テストの点数をお母さんに見せるたびにスマホばかりじゃなくて勉強もねと言われる。さすがにそろそろまずいと自分でも思っている。

 家に帰るとどうやら先生が電話していたようでお母さんと一対一で話をされた。

「携帯ばかりいじっていてテストの点数が取れてないのは相当問題だよ。最初は甘めに見ていたけど点数がどんどん下がっていくから少しは危機感を持つのかと思ったけどそんなこと一切なくてがっかりだよ。」

「いや、僕だってちゃんと勉強しているって。点数が下がったのは一時的なもので…。」

「この点数が下がったのは一時的なものではすまないわよ。これからどんどん下がっていくよ。」

お母さんはなんだか悲しい表情をした。

「お父さんだってこうならないために毎日のように嫌われる覚悟で言っていたのに…。」

聞こえないくらい小さな声でお母さんはそう言った。僕はその言葉を聞いて自分はなんてことをしていたんだと反省した。

 それからは自らでスマホをしばり付けて机に向かうようにした。お父さんの思いをきちんとみ取った(※3)生活が始まった。




◎言葉

※1 身を挺して…自分の体を犠牲ぎせいにすること。

※2 肌身離さず携帯…どこへ行くときも必ず持っていること。

※3 汲み取った…他の人の意見を理解すること。

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