第20話 時間は前にしか進まない

 一言で表すなら、バイト先のアイドル。


「なんでさぁ、社員さんってあんなに厳しいのかな。ゲーセンだよね、ここ」


 容姿としては、クラスで2番目にかわいい子、というのがしっくり来る。

 確かにかわいいけれども嫌味じゃない感じ。

 そして中身はというと、人懐っこい性格をしている。人見知りをしないし、誰とでも話しをする。

 なによりも懐いてくる、というのがぴったりな距離感。

 そんなだからバイト仲間にも好かれているし、常連さんにもたくさんのファンがいる。


 どう考えてもアイドル。一番しっくりくる。


「そういえば、この前入った音ゲーやった?」


 無論バイト仲間である僕も例外ではなく、この子のファンだ。

 正直なところ、恋心を抱いたこともある。

 でも僕は、何の特徴もない大学生。バイト先のアイドルとでは、なんだか釣り合わない気がした。だからそれは、僕の心に秘めることにしている。


「音ゲー楽しいけど、難しいよね」


 もう一つ、僕がこの子に恋心を抱かなかったのは、彼氏の存在だ。

 これだけ人に好かれる子だ。むしろ当然のように彼氏がいる。

 彼氏の写真を見たことはないけれど、僕とは違いカッコイイ男に決まっている。そう思うたび、少しだけ嫉妬が心によぎる。


「もうすぐ休憩も終わりだね。もっと長く休憩時間があればいいのに。そしたらもっと話ができるのにねー」


 ゲームが好き。そんな理由で僕はここのバイトに応募した。しかし彼女との出会いは、うれしい後付の理由になっている。

 偶然にも同じ年齢で、シフトも同じことが多い。だからこうやって話をすることもある。アイドルをひと時とはいえ、独占しているというのはちょっとした自慢だ。


 ん?


 僕はさっきの言葉に、少しだけ違和感を感じた。この子は今、何と言ったんだろうか。違和感を感じるが、それが言葉にならない。言葉もうまく思い出せない。

 ギャルゲーなら台詞を戻すことが出来るけれど、ここは現実世界だ。そんなことは出来ない。

 僕は違和感を感じたまま、「そうだね」と返した。

 そうしたら彼女は、口を猫の口のようにした。


「じゃ、そろそろバイトに戻る準備しますか」


 彼女はそう言うと、立ち上がって大きな伸びをした。僕も伸びをした。伸びをしたけれど、やはりさっきの言葉は思い出せなかった。

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