第18話 止まった時間の中で

 兄と妹。

 僕たちの関係を表すなら、それが一番しっくりくる言葉だ。


 実の兄妹ではない。

 付き合いはもう、4年ほどになるのか。友達の友達として知り合い、すぐ打ち解けた。

 今では2ヶ月に1回くらい、食事とカラオケに行くのが恒例行事になっている。

 付かず離れずの距離感。やはりどう考えても、兄と妹と表現するのが一番しっくりくる。それも極めて仲のいい、だ。

 僕は彼女を妹と呼ぶし、妹は僕を兄と呼ぶし、だ。


 今日も今日とて、食事、そして歌。

 いつものレストラン、いつものカラオケボックス。

 カラオケで歌う曲も大体決まっている。もちろん全部がいつもの歌ではないが、だいたい半分はいつもの曲だ。

 いつもの歌、そして聴きなれた歌声。変わらない恒例行事。


「いつも思うけど、歌うまいよね。兄はあれだね、女の子とカラオケに行くと絶対にモテるよね。うん」


 これもいつものやり取り。

 自慢ではないが、僕は歌には少々自信がある。実際僕が歌うと、おおよそいい反応が返ってくる。

 問題なのは、なかなか女の子の目で歌う機会が無い、ということだ。

 出来れば妹以外の女性の前で歌いたい。いつもどおり、誰か女性を紹介してくれと妹に頼む僕。


「いや、兄はなんか違う。そういう感じじゃない」


 妹に女性の紹介を頼むといつもこう返ってくる。どういう感じだよ、とも思うが、本人にその気が無いので仕方がない。


 いつもどおりのやりとりをし、場はいつもどおりの雰囲気になった。

 カラオケの会計をすませ、車を走らせ妹の家に向かう。

 車で妹の家まで送る道すがら、いつもはお互いの会社の愚痴で車内が満ちる。しかし今日は、いつもは起こらない会話になった。


「なんだろうね。兄に彼女が出来たとするじゃん」


「うん。なんだ改まって」


「いやね、もやもやと思っていたことが言葉になったんだよ。あのね、もし兄に彼女が出来たとする。そしたら私は喜ぶと思う」


「そうなのか。じゃあ誰か紹介してよ」


「いや、違うの。それだけじゃないんだよ。多分ね、喜び半分、嫉妬半分だと思う」


「嫉妬?」


「そう、嫉妬。なんかイヤなの。兄が他の女の子と付き合うって言ったら。だから私は兄に誰も紹介したくないんだと思う。でも嬉しいんだよ? 兄に彼女が出来たら。早く幸せになって欲しい」


「ははっ、なんだそれ。」


「いや、まぁそんなことを思ったの。うーん、なんかもやもやが言葉になった感じ」


「そうか。でもな妹。僕も君に彼氏が出来たら喜び半分、嫉妬半分だと思うぞ」


「ははっ、同じ同じ。何だろうね、私と兄のこの関係。」


「兄妹だろ?」


 いつもとは違ったやり取りの中、妹はもやもやが言葉になったようだ。

 やはり僕たちは兄と妹という関係なのだろう。どこまで行っても、男女の関係にはならないんだと思う。そう、それはそれで悪くない。多分、悪くない。多分。

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