第17話 もしも追い人

 もしあの時、スマホがあれば、結末は変わったのかもしれない。


 僕の浪人時代だから、今から20年以上も昔の話だ。

 スマホは当然なく、まだ携帯電話の時代だ。それも今ほど普及しておらず、一部の人の間でしか存在し得ないものだった。


 僕には中学時代、好きな子がいた。

 中学生にして、可愛いというよりも綺麗、と表現するのが正しい、凛とした子だった。

 中学の卒業式に校舎裏で告白をし、「好きな人がいるの。ごめんなさい」と言われ失恋をした子でもあった。

 高校は別々で、振られたということもあり、僕の彼女への想いは当然のように途切れた。


 それから3年後、僕は大学受験に失敗し浪人となり、予備校に通っていた。


 浪人生活にもずいぶんと慣れた秋のことだ。予備校で僕は、その彼女と偶然の再会を果たした。


 懐かしい顔との対面。お互いの心を高揚させ、昔話や近況に花が咲いた。不思議なほど、振った振られたと言う、わだかまりも無かった。年月がそれを風化させたのかもしれない。


 それからは毎日一緒に帰った。予備校が終われば本屋や服屋を回り、たまにおやつを食べ、そして話をしながら家へ送り届けた。


 彼女との帰り際には、翌日一緒に帰る約束をした。

 スマホも携帯電話も無かった当時、待ち合わせの約束はとても大事だった。

 授業が終わるのがこの時間だから、その時間にロビーで待っていて、という風だ。

 予備校が休みの土日以外、毎日その約束をし待ち合わせ、一緒に帰っていた。

 そして僕は、日々彼女への想いを募らせていった。


 そんなことがどれくらい続いただろうか。私大の入試が近づくある日のことだ。その時も僕たちは談笑しながら一緒に帰っていた。

 その時、彼女は言った。


「もうすぐ浪人も終わりだね。そうしたら、なかなか会えなくなるね」


 確かにもうすぐ浪人生活は終わりを告げる。僕と彼女は違う志望校だったため、それは別れの宣告に近かった。しかし僕には、どうしてもそれが耐えられなかった。また会いたい、また一緒に帰りたい。でも連絡が取れない、でも約束が出来ない。


 僕はその場でもう一度、告白をした。必死の告白だった。

 しかし「好きな人がいるの。ごめんなさい」と、またも同じ文句で失恋した。


 その後のことはあまり覚えていない。泣いたのかもしれないし、笑って誤魔化したのかもしれない。いや、その両方だったのかもしれない。


 もしあの時、スマホがあれば、結末は変わったのかもしれない。

 大学に入ってからも普通に連絡が取れ、結末を急がなくてもよかったのかもしれない。彼女とその好きな人との、結果を待つことができたかもしれない。


 もちろん、それがただの都合のよい妄想に過ぎないことも承知している。どうあれ、結末は同じだったのかもしれない。ただそれでも。


 僕たちは今、当たり前のようにスマホで連絡を取り合っている。今まさに、恋愛で大活躍なのだと思う。それはとても幸せなことなのだと、僕は声を大にして言いたい。悔しさ半分なのは、まぁ許してくれよ。

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