第16話 そういう繋がりこういう繋がり

 県最大の総合駅。その一角。大勢の人が集まり始めていた。オフ会の参加者だ。幹事いわく、総勢20数人の大所帯らしい。


 集合時間は19時で、今はその20分前。参加者である俺は、少し早めに集合場所に到着していた。

 集まった参加者に、今のところ顔見知りはいなかった。

 なので俺はスマホで音楽を聴いていた。

 有線のイヤフォンと言うのが、あまり現代的ではない気がしたが、まぁ俺は気にしない。


「あ、なんかいたね」


 気づけば目の前に女子がおり、俺に声をかけてきた。

 何度かオフ会で会っている顔見知りで、名前はミサ。

 このオフ会に参加する、と聞いていたので、この場にいることには何も不思議はない。

 しかし「なんかいたね」という声のかけ方はどうかと思う。だがこの子はこういう子で、思ったことを素直に言葉にする。

 それが魅力や美徳になっており、少なくとも俺は嫌いではない。俺はイヤフォンを外し、挨拶をした。


「何聴いてたの? ていうか、どんな音楽が好きなのか聞いたことないよねー」


 そう聞かれ、俺はあるロックバンドの名前を口にする。今から約10年前に流行ったバンドだ。

 流行りは越したが今でも根強いファンが多いと聞く。そして曲のノリがいい、ということで俺は好んで聴いている。


「うおお! 懐かしい! 聴きたい!」


 テンションが少し上がったようで、その言葉を聞いた俺は、イヤフォンを渡した。

 そして俺の胸から伸びたイヤフォンがミサの耳に装着される、という光景が出来上がった。


「オフ会参加の皆さん! 全員揃ったから現場に向かいますよ!」


 幹事の声があたりに響く。そんなやりとりをしているうちに時間になり、全員揃ったらしい。


「じゃあ私についてきてー!」


 そう言い歩き始める女性幹事と、それに続くオフ会参加者の面々。

 そして俺とミサは、イヤフォンでつながったまま歩き出した。

 傍から見て奇妙な光景に写ったに違いない。すぐ横にいた他の参加者から「なんか犬の散歩みたいですね」と声をかけられた。

 そうかもしれない。でもそうすると、俺が飼い主でミサが犬、なのだろうか。


 俺はミサのイヤフォンをちょっと強引に外し、「お手」と言って手を差し出してみた。

 するとミサは、少し考えた後、逆に俺に「お手」と言って手を差し出してきた。

 その手に手を重ねる俺。迷ったが「ワン」と言った。「バカじゃないの?」と笑うミサ。俺もつられて笑った。


「もう少しで会場だから幹事から注意事項ね! 泥酔だめ! みんな仲良くね! あとそこ! いちゃつくのはよそでやりやがれ!」


 幹事がそう言うと、参加者の視線が俺たちに向けられるのが分かった。

 そこには苦笑する俺と、イヤホンを装着しなおし、音楽でご機嫌のミサがいた。

周りから見たら俺たちはどう見えるのだろうか。それが頭をよぎったが、まぁどうでもいいことだった。

 それよりも、今はYouTubeで大抵の音楽が聴けるのに、なんでミサは俺のスマホから音楽を聴いているのか。その方が謎だった。

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