第14話 続いてのリクエストは

「少しドライブに付き合ってくれないかな?」


 ドライブはとてもいいものだと思う。ちょっとしたデートに気軽に誘えるから。


 助手席に座るのは、最近ちょっと気になる女の子だ。行くあてが無いのは味気ないので、海を臨む灯台を目指して車を走らせた。ステレオを操作しラジオを。そこではDJが、FMラジオ特有のテンションで話をしていた。


 車内では色々なことを話した。仕事のこと、家族のこと、趣味のこと。そしてちょっとした昔話。

 会話の内容はとりとめもなかったが、楽しい時間だった。そして会話の隙間はラジオが埋めてくれた。


 目的の灯台まで、残り10分くらいになった頃。ラジオからあるロックバンドの曲が流れた。叙情的な歌詞が印象的な曲だ。


 俺は会話が途切れるのを待って、その曲を口ずさむ。確かに以前よく聞いていた曲だったが、意外なほどすらすら歌詞が出てきた。

 歌は好きだ。歌っているときは幸せが俺の体を満たす。もっとも女の子は、突然の俺の歌に戸惑いはするのだろうが。


 そして曲が終わり、俺の歌も終わった。


「歌、うまいんだね」


 それは彼女からもらった嬉しい感想だった。好きなものを褒められる、これほど嬉しいことがあるだろうか。


「歌うと声質、すごく変わるんだね。ちょっとびっくりしたよ」


 程なく灯台に着いた。車から降り浜辺を2人で歩いた。


「ねえ。何か覚えている歌は無い? 君の歌、また聴きたい」


 彼女からのリクエスト。俺は少し考え、あるバラードを歌うことにした。雨をテーマにした曲だ。そして、一番うまく歌える自信のある曲でもあった。

 俺は頭の中で曲を流し、歌い始める。


「あ……」


 歌いだした直後、彼女の口から言葉がこぼれる。

 俺は歌う。気持ちをこめて歌う。

 それはただただ気持ちよく、背筋にぞくぞくしたものを走らせる。

 観客はちょっと気になる子が1人。


 俺が歌い終わった頃、彼女は無言で俺を見つめていた。

 俺は彼女と視線をを合わせた。

 すると彼女はにこりとした。

 あぁもう、なんだろうな、やっぱり歌っていいな。でも次歌う機会があるなら、彼女の好きな歌を歌おう。そう思い、彼女に聞くことにした。


「ねえ、好きな曲ある? 次の時、それ歌うよ。練習してくるからさ」


「えっとね。今、歌われちゃった」

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