第12話 これはこれで幸せなのだ
「お前らも彼女を作らないとな」
俺たちは合コンのため、居酒屋に集まっていた。
事の発端は友人、トモに彼女が出来たことだ。トモと彼女の出会いはバイト先。よくある話だと思う。
俺はトモのバイト先に結構立ち寄っていたので、その子のことは知っていた。笑うと糸目になるのが特徴的な、可愛らしい子だった。俺がトモのバイト先に立ち寄ると、よく3人で話をした。
たまたま俺とトモの彼女は気が合い、連絡先を交換している。正直なところ、俺もその子に好意を寄せていた。
でも俺はトモの気持ちかなり前から聞いていたので、連絡は取らないようにし、好意は心に秘めることにした。男っていうのはこういう時、遠慮をしてしまうものなのだ。
今日の合コン参加者は、トモと男友人2人、そして俺の計4人。女の子も4人という事なので、数はバランスが取れている。予定より少し先に到着した俺たちは1席ごと交互に座る。真っ直ぐ一列に座っては、お見合いみたいで嫌だったからだ。こういう細かいところが後で生きてくる、と信じている。
「こんばんはー」
そうこうしている間に、女の子たちが到着した。人数は聞いていたとおり、トモの彼女を含めて4人。女の子たちはそれぞれ空いた席に座り、そして合コンが始まった。
自己紹介もそこそこに、酒と会話で席が満ちた。こういう時、酒というのは便利なものだ。簡単に心を開かせるし、会話は弾みやすい。そしてテンションも上がる。場は簡単に盛り上がって行った。
一時間くらい経ったころ、最初の席順など何処へやら、だった。思い思いに陣取り会話をしている。そして俺は、トモとその彼女、の3人で会話を楽しんでいた。
しかしトモは飲みすぎたのか、「眠い」と言って彼女の膝枕で横になった。放っておけば、そのまま寝息を立てる勢いだ。どうしたものか、とも思ったけれど放っておくことにする。酒も入って彼女に膝枕してもらう、これが幸せで無いはずがない。もっとも、好意を寄せていた女の子の膝枕だ。トモが羨ましくも、憎くもあった。
「ねえ、なんか疲れちゃった。ちょっと背もたれになってよ」
それはトモの彼女の口から出た言葉だった。俺には全く意味がわからなかった。
「背もたれってどういうこと?」
「いや、言葉のとおり。私の背もたれになって欲しいの。私を後ろから抱きしめるようにすればいいんだよ」
それこそ意味がわからなかった。この子は俺の彼女ではない。トモの彼女だ。なぜこんなことを言うのだろうか。疑問符が俺の頭をいっぱいにする。
「あーもう! 早く!」
そこまで言われて断るのは変だ。そう思いその子を後ろから抱きしめる。女性の、そして思いを寄せている子特有のいい香りが、俺の鼻腔をくすぐった。
「うん、それでいいの……そうそう」
そんな俺たちの状況を見て、回りの女の子たちの口々に言った。
「なんか付き合ってるのが、この二人みたいだよね」
「これも浮気って言うのかな?」
なんだろうか、この状況は。いいか、幸せなのは確かだ。俺は自分に言い聞かせるようにした。そして、愛しい彼女を抱きしめるように、少しだけ腕に力を込めた。ほんのちょっとだけ、ほんの気持ち、だが。
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