第11話 見も知らぬ方へ
水曜の午後、僕は市立の図書館に行く。
水曜は午前中で大学の授業が終わり、またバイト先が定休日なので時間があるからだ。
僕は本を読むことも、図書館のように静けさを持つ場所も好きだった。
図書館についた僕は、館内の読書スペースへ向かった。
いつもどおりの静かな読書スペース、その窓近くの席にその人はいた。
長めの黒髪でメガネをかけた、読書好きというイメージを絵に描いたような女性。
僕が図書館に向かうもう一つの理由、それは彼女の存在だ。
彼女を見つけたのは、かれこれ2ヶ月ほど前だったろうか。
あまりにも僕のタイプ過ぎて、見かけた瞬間心が高鳴った。
一目惚れ、というやつだ。
彼女は水曜日に図書館に行くと、いつもあの席にいる。僕も本を持ち込み、いつもの席に向かう。近すぎず遠すぎず、彼女を見れるギリギリの席だ。
改めて彼女を見る。
いくつくらいの人なのだろうか。見た感じは僕と大差ないように思えた。
しかし平日の昼間に図書館に来れるということは、僕と同じく大学生か、それとも社会人か。
知り合いたい、なんらか話しかけるきっかけが欲しい、と願う。しかし今までのところ、そんなきっかけは無かった。
いっそのこと、強引にでも声をかけようかとも思うが、僕にはそんな勇気は無い。いつもどおり、何かに期待をしながら遠めに眺めるだけだ。
僕は彼女を見ながら後ろを通り過ぎ、本を取りに行くことにした。
もしやなんらかのきっかけが起こらないか、と一縷の望みを託してだ。
その時、僕の眼に入ったものがあった。指輪だった。彼女の左手薬指に、それがきらりと光る。そして彼女への想いが急に冷めていった。
僕は本を返し図書館を後にすることにした。一刻も早く、この場から立ち去りたかった。
僕の一目惚れは、意外なあっけなさでその幕を閉じた。そして見も知らぬ彼女の旦那さんに嫉妬した。
あんな人を奥さんに出来て、羨ましいなこんちくしょう。
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