第9話 希望という名のタバコ

 僕は一人暮らしをしている友人の部屋で、朝を迎えた。

 時計を見ると、朝七時。

 ぐるっと部屋を見回すと、そこらに男女三人ずつが雑魚寝をしていた。よくある大学生の飲み会後、だった。


 僕は軋む体を伸ばし、大きくあくびをした。

 改めて時計を眺める。記憶では2時までは飲んでいたはずだ。おおよそ5時間ほど寝たことになる。短いけれど、それにしては頭がすっきりしていた。


 ベランダに出ることにした。そしてポケットからタバコを取り出し、火をつけた。僕が吐いた煙は大きめに広がって、少ししたら消えた。


「おはよー」


 後ろから声が聞こえた。声の主はアヤカ。


「あ、お邪魔?」


 僕は首を横に振る。するとアヤカもベランダに出て、大きく伸びをした。そして言葉を続けた。


「タバコ、私にもちょうだい」


 僕はタバコを取り出し渡した。


「なにこれ!? すっごいキツい!! あー、びっくりした。よくこんなの吸えるね」


 僕は笑顔をアヤカに向ける。アヤカの目に少し涙が滲んでいるのが分かった。


「これなんていうタバコ? えーっと、ホープ、か。希望かな。いや、希望って感じじゃないでしょ、このキツさ」


 希望という名前に合った、タバコのキツさなんてあるのかな。ぼんやりとそんなことが頭に浮かんだ。


 アヤカはまた背伸びをした。その目線の先には太陽があり、少しまぶしそうにしながら言葉を紡いだ。


「私たちも来年は卒業だね。みんな社会人になって、ばらばらになっちゃうのかな。それは少し寂しいな」


 僕は煙の流れを目で追いながら言った。


「確かに社会人になったら、こういう集まりもできないかもしれない。仕事追われて、それどころじゃないのかもしれない。それでもまた集まれると思う。なし崩し的にできなくなる、なんてのを僕は認めたりしない」


 そう言うと僕は、またタバコを一吸いした。


「かっこいいこと言うね。そういうの、結構好きだよ」


 アヤカが少し目線を僕に向けながら言った。柔らかな視線が向けられた。


「アヤカ。今度二人で作戦会議しようか」


「作戦会議?」


「そ。来年になっても、再来年になっても、みんなで集まれる作戦会議」


「いいね、悪くない。そういうの、結構好き」


 そう言った僕の頭には、(僕はアヤカがいれば、それでいいんだけどね)、と言葉が浮かんだ。かもしれない。

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