第7話 それはどうもありがとう
「先輩って、なんかサックス吹けそうですよね」
会社の後輩である、カナコにそう言われた。さっきまで他の話をしていたのに、急に話が変わったので少し混乱する。急に思いつき、そのまま口から出た、そんなところだろう。
サックスとはあの楽器のことに違いなく、少なくとも俺はそれ以外に知らない。そして俺はサックスを吹けない。いや、音楽なんて学校の授業以外で触れたことも無い。
「やってない。なんだそのイメージは」
「先輩の言うとおり、私が先輩に抱いているイメージです。ふとした思い付きです」
やはりどうやら、ただの思い付きらしい。楽器をやってそうというのはいいイメージなのだろうか。しかし、少なからず喜んでいる俺がいるのも事実だ。悪い気はしない。
この話、面白そうだ。俺はカナコを促し、もう少し俺のイメージを聞いてみようと思う。
「あとですねー。外車に乗ってて」
残念ながら、中古の軽自動車だ。
「ロフトの付いてるアパートとかに住んでて」
実家暮らしでしかも和室、さらには押入れが物置のような有様だ。
「そこで自炊とかしてて、料理が上手で」
カップラーメンにお湯を入れるのが自炊になるなら、間違ってはいない。
「なんかカラフルな熱帯魚飼ってて」
飼っていない。もし飼っていても、家には猫がいるので、そのご飯にしかならないだろう。
「本棚には詩集や画集、あと文学とかそういう感じの本が並んでて」
本棚にはマンガくらいしか並んではいない。画集といえば画集なのだろうか。
「ジャズのCDをたくさん持ってそう!」
なぜジャズ?
「よし、わかった。OKOK」
俺はカナコの話を遮って、終わらせる。どうやらカナコは俺に、マンガに出てくるオシャレキャラみたいなイメージを持っているらしい。そしてこう改めて自分を省みて思う。全くオシャレではないな、俺は。
「それにしてもカナコ。俺にオシャレなイメージを持ってるのな」
そうですね、という返答を期待して少し待つ。しかしカナコから出た言葉は、違うものだった。
「オシャレとかカッコイイとか、そういうんじゃないんです。うまく言えないんですけど、先輩は、それっぽいんです」
なんと答えていいかわからず、俺は頭をかき、そして、笑顔を返すことにした。それっぽいとはどれっぽいのか。これは俺、褒められているんだろうか。とりあえず、褒められている、と、そう思っておくことにする。
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