第3話 リトルヒーロー
男ってのは、好きな子の前で張り切るものなのだ。
中学生の時、俺はバレー部だった。背が高いため、ブロック要員としてレギュラーに収まっていた。
俺たちは地区大会で2位を獲り、県大会へとコマを進めた。県大会の出場は学校中で話題になった。これはこの中学バレー部、初の快挙だったからだ。
さて、俺には好きな子がいて、その子もバレー部に所属していた。県大会の当日には、クラスメイトが応援に来てくれることになった。その中には俺の好きなその子もいて、俺のテンションは俄然上がるのだった。
そして県大会当日。俺はコートに入る。トーナメントなので、負ければそれで終わり。プレッシャーから足が軽く震えた。コートの外に視線を向けると、俺の好きな子がそこにいた。
試合開始。
相手は別地区の一位突破校。当然のように強く、ミスも無い。
地区大会では使えたサーブも通用せず、エースのスパイクも拾われる。
どうやっったら勝てるのか分からなかった。そんななか、俺たちは必死にボールを追いかけ、自分の役割を果たすしかなかった。
俺の役目はブロッカー。相手のスパイクにあわせてジャンプをする。試合が進み、緊張もほぐれた。俺は普段よりも体が軽く、ジャンプも綺麗に飛べていたと思う。そして、あの子にカッコいいところを見せたかった。
試合終了。
俺たちの一回戦敗退が決定した。ストレート負け。完敗だった。
コートから更衣室に戻った。チームメイトの間に言葉は無かった。
外に出ると、そこにはクラスメイトがいた。みんなから「お疲れ様」「よくがんばった」と言葉が飛んできた。負けたけれど、少しだけヒーローになった気持ちだった。
そして俺は好きな子を目だけで探した。少し向こうにその子がいるのが分かった。目が合った。そして、少し柔らかく微笑んでくれた。かっこいいところを見せられたのかは分からない。俺を見てくれていたわけでもないだろう。でも。それでも。俺はその笑顔だけで、十分報われた気持ちだった。
男ってのは、好きな子の前で張り切るものなのだ。そういうものなのだ。
(了)
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