第10話 ギルド登録

 次の日の朝。


 コンコンコンッ。


「ルイスさーん! いつまで寝てるのー!?」


「ん……。もう朝か……」


 少女のうるさい呼び声とドアを叩く音で目が覚めた俺は、そのまま玄関へ直行しドアを開けた。


「ふぁ……。おはざーっす」


 眠い目をこすり、あくびをしながら挨拶をすると、少女は怒った口調で言う。


「おはざーっす、じゃないわよ。約束の時間とっくに過ぎてるんだけど?」


「ん、まじか。今何時なんだ?」


「九時よ九時。私、八時までに用意済ませといてって言ったじゃない」


 どうやら俺は一時間寝坊してしまったらしい。

 

 やっぱり朝早く起きるの苦手だな。

 今後は朝集合じゃなく昼集合にしよ。


「いやぁーすまない。今から急いで飯食って用意するから、中に入って待っててくれ――」


 そこまで言ったタイミングで、少女は俺の腕を引っ張る。


「ギルドって結構混むのよ。だからそんな時間はない。もう行くわよ」


 そう言って俺を外に連れ出そうとする。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺いま寝間着だし、それにまずは朝飯を食わせてくれ」


「朝ごはんならギルドに併設されている酒場で済ませればいいわ。それにその寝間着、ルイスさんが普段着てる服と大差ないから大丈夫よ」


 こいつは一日に一回俺を小馬鹿にしないと気が済まないのか。

 そもそも毎日毎日、スライムが描かれたダサい服を着てるこいつだけには服装を馬鹿にされたくないんだがな。


 てか、意外と力あるなこいつ。全然腕を振りほどけねぇ。


「分かった、朝飯の方は分かったから、せめて服だけ着替えさせてくれ。寝間着を汚したくないんだよ」


「分かったわ。けど早くしてね」


「へいへい」


 そうして俺は、寝間着ぽくない私服に着替えて、少女と共に歩いてギルドへと向かった。

 大体二十分くらい歩いた所で、少女は立ち止まって言う。


「ここが、エリアスギルドよ」


 指差された真正面の建物。

 城壁を彷彿させる壁に、洒落た窓と屋根。それはまるで小さな城の様だった。


「で、デカすぎだろ。俺の店何個分だよこれ……」


 少女から事前に街で一番大きいギルドとは聞いていたが、まさかここまでデカいとは思わなかった。

 依頼の数も一番らしいし、相当金を稼いでいるんだろう。何とも羨ましい。


「じゃ、入るわよ」


「おう」


 重い扉を開け、中に入ると。


「あの依頼も簡単そうだしいいんじゃねーか?」

「おい、俺が先に並んでたんだよ。どけよ」

「あ? やんのか?」

「あー眠い」

「今日は絶対十万ラックは稼ぐ!」


 扉近くまで冒険者が並んでいて、ギルド内はぎゅうぎゅう詰めだった。


「今日は一段と多いわね……。もうしょうがないし、先に朝ごはんを済ませましょ。こっち来て」


 俺達は冒険者たちの間を通り抜けていく。

 がたいの良い冒険者には、体が当たって喧嘩にでもならないよう、特に注意を払って進んでいく。


 そして人混みを抜けると広い空間に出た。

 そこには沢山のきれいに並べられた机と椅子があり、そこで冒険者が飯を食べたり酒を飲んだりしている。


 この時間にほぼ満席って、めちゃくちゃ繁盛してんな。

 一体どれくらい稼いでいるんだこのギルド。まじで羨ましい。


 そんな事を考えていると、少女が話しかけてくる。


「あの奥に見えるカウンターでご飯とか飲み物を注文、そしてそのままそこで受け取りだから。……とりあえずその間、私はここの席で待ってるわ」


「あれ、君は何も頼まないのか?」


「ええ。家でもう食べたもの」


「なるほどな」


 俺は相槌を打った後、飯を注文するためにカウンターへ向かった。

 しかしその途中で、金を持ってきてない事に気付いた俺は少女のもとへすぐに引き返した。


「どうかしたの?」


「あのー。さっき気付いたんすけど、急いで用意してたんで金持ってくるの忘れたんすよね。だからその、貸してくれたり――」


「しないわ」


 間髪を入れずに少女は断ってきた。


「なんで!?」


 まさか断られると思ってなかった俺はとっさに大声を出してしまう。


「私もお金を持ってきてないのよ。……だからもう朝ごはんは諦めて。ほら、ギルドカウンターの列に並ぶよ」


 そう言って少女は席を立ち、列の方へ向かう。


 朝飯抜きってマジすか……。

 昨日は疲れてたから晩飯食わずに寝ちゃったし、今いつも以上に腹減ってんだよ……。


 やっぱ意地でも家で食べれば良かった……。


 後悔を胸に俺はトボトボと少女に付いて行き、列に並ぶ。

 数分くらい経って、俺は呟く。 


「朝早いのに、この列の長さ凄いなマジで」


 列が長すぎてカウンターが小さく見える。


 しかも見た感じ受付は五つもあるのに、一向に前へ進まない。

 この調子じゃあ、一時間以上は並ぶことになりそうだ。


 順番がきた頃にはまぁ、俺は餓死しているだろうな。

 あー腹減った。


 すると急に。


「冒険者の朝は早いのよ。条件の良い依頼の取り合いになるからね」


 少女が俺の独り言に反応してきた。


「ん、条件の良い依頼って?」


「そりゃ簡単に多く稼げる依頼よ」


「へー。じゃあ後になればなるほど難しくて稼げない依頼しか受けられないって事か」


 朝が苦手な俺には百パーセント向いてない仕事だな。

 まぁ、例の調査依頼が終わったら冒険者なんてすぐ辞めるし関係ないけど。


「いや、達成されていなければ依頼はいつでも受けられるわよ。まぁ、大抵は最初に依頼を受けた人が達成して報酬を受け取るけどね」


「なるほどな。冒険者も大変なんだな」


「まぁね」


 それから会話は特になく、三十分くらいして俺たちの順番が来た。


「おはようございます。本日はどのようなご用件で」


 淡々とした喋り方の受付嬢。

 後ろで桃色の髪をひとまとめにし、凛とした雰囲気を放っている。


「この人のギルド登録をお願い」


 少女が話を進める。


「分かりました。……ではこちらの紙に書いてある規約をよく読んだ後、下の方に名前と生年月日、住所を書いてください」


「うっす」


 俺は規約をしっかりと読んだ。


 そこには色々書いてあったが、大抵は冒険者は自己責任といった内容のものだった。

 重要そうなものでいうと、複数のギルドでギルド登録はできないってことくらい。


「書き終わりましたー」


「はい。……ではこれでギルド登録をして、ギルドカードを作るので少々お待ちください」


 そう言って受付嬢は奥に行った。

 それからほどなくして、戻って来る。


「お待たせしました。こちらがギルドカードです」


 渡されたギルドカードは全体的に白く、そこに俺の名前や生年月日、住所が書かれており、そして中央にはでかでかと謎の紋章が描かれている。


 まぁ、ここのギルドの紋章とかか。


「そのギルドカードは依頼を受ける時、依頼の報酬を受け取る時、討伐した魔物の素材換金をギルドでする時など、様々な場面で必要なので、いつも携帯して無くさないようにしてください。なお、無くした場合の再発行はお金がかかるのでご注意ください」


「分かりました」


 規約に確か、再発行は一万ラックかかるとか書いてあったよな。

 絶対に無くさないよう気を付けないと。


「これでギルド登録は終了です。何か他にご用件はありますか?」


 俺と少女は顔を見合わせ、他には何もない事を確認する。


「ないです」


「分かりました。ではルイス様、これからよろしくお願いします」


 受付嬢はそう言って一礼をした。

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