第9話 大船に乗ったつもりでついてきてよ
「一緒に冒険者活動……? なぜ……?」
「丁度パーティメンバーが欲しかったからよ」
「いや、なんで俺なんだ? ついさっき、俺のファイアを下の中だなんだって小馬鹿にしてたよな。そんな奴、戦力にならないだろ?」
冒険者活動って魔物を狩って金を稼ぐ、冒険者するって解釈でいいよな。
それなのに、魔法を覚えたてほやほや、戦力外の俺を誘うって意味わからんだろ。
あ、そうか。こいつ寂しいんだな。
最近俺と一緒にいすぎて、一人の時間が寂しく感じてるんだな。
そんな事を考えていると、少女は淡白に。
「あー戦力としては期待してないから安心して」
そう言ってきた。
こいつ、本気でぶん殴って物理の偉大さ思い知らせてやろうか。
「じゃー尚更なんで戦力として期待してない相手を誘うんだよ」
俺が拗ねた言い方で聞くと、少女はそれに気付き軽く謝った後、説明し始めた。
「実は数日前から例の洞窟の調査依頼が出てて、それが結構いい報酬額なのよ。ただ、一人で受けようにも人数制限があって、二人以上じゃないと受けられないのよね。私は割と最近、冒険者になったばかりだし、知り合いも仲間もいなくて。だから、ルイスさんを誘えば丁度いいなと思ってね」
そう言う事だったか。
つまり俺は人数合わせのために、あの危険な洞窟にまた行かなきゃならないと。
そんなの無理に決まってるだろ。
あれ結構なトラウマになってるし、この少女と行くのはとても不安だ。
これは断るしかない。
「すまないが無理な話だ。魔道具店のこともあるし、あそこにまた行くのは恐ろしすぎる」
死ぬのが怖いし、死なずとも怪我でもしたら、また借金が増えるだけだしな。
「そっかぁ、残念。その報酬額があれば、ルイスさんの借金も一気に払えるのに……」
ん、報酬?
借金を一気に?
「ちょっとその話詳しく」
そう言うと、少女はニヤッとして俺を見ながら。
「あれ、魔道具店のことがあるから無理な話なんでしょ?」
と煽ってくる。
しかし俺はそれを気にも留めずに言う。
「報酬が俺の借金を払えるって話なら別だ。それで、その報酬額はいくらなんだ」
「そうよね気になるわよね……。その報酬額はなんと、驚きの百五十万ラックよ!」
「百五十万ラック!?」
「そう! 百五十万ラック!!!」
「うん、無理だ。借金額に届いていない」
「え!? 百五十万じゃ足りなかった?」
「足りない。俺の借金は三百万ラックだし、そもそもその報酬額は俺と君で分け合うんだろ? それなら半分にも届かないし、かなりいい額ってのは分かってるが、命を落とす危険性を考えるとな。その額じゃ行けないな」
かなり美味しい話なのかもしれない。
だが、俺はこの間の一件で学んだんだ。
美味しい話には裏がある。
あのババアで痛いほど分かった。
だから、俺はその調査とやらには行かない。
しかし俺の考えとは裏腹に、少女はめげずに俺を説得する。
「ルイスさんは、死ぬことを危惧して洞窟に行くことを躊躇しているのよね? けど安心して、死ぬ事は絶対にないから、大船に乗ったつもりでついてきてよ」
「その自信はどこからくるんだ」
俺が質問をすると、少女は鼻を高くして話す。
「自信というより、確信よ。そもそもその調査依頼ってのも、私たちの一件があって出された依頼なのよ。内容は、大量発生した魔犬の調査及び洞窟最奥の調査。けど、この間話したように、大量の魔犬が何故かルイスさんの周りで死んでいた。原因は分からないけど、あれだけの数だもの、恐らく洞窟の中にもう魔犬は――」
「いない――! そう言う事だな?」
「そう! そしてこれを知っているのは私とルイスさんだけ! 今のところ、他の冒険者たちはビビってその依頼を受けてないし、凄いチャンスよ!」
聞けば聞くほど美味しい話だ。
しかしやはり、裏があるのではないかと考えてしまう。
少女を疑っているのではない。
その調査依頼を他の冒険者が受けていないという状況が怪しい。
そもそも冒険者とは常日頃、死が隣り合わせの職業だ。
毎日のように危険な魔物と戦い、命をかけて戦っている。
そんな彼らが、百五十万ラックも貰える調査依頼を受けないはずがないんだ。
それなのに、彼らはその依頼を受けずにいる。
それには何か、受けないだけの理由があるんじゃないか――。
「あっ、そういえば俺を助けにきた冒険者たち。その人達も魔犬が大量に死んでいた光景は見ているはずだろ? それなのに、なんでその人達は依頼を受けてないんだ? 俺たちと同じ様に、洞窟に魔犬はもういないかもって結論を出しててもおかしくはないのに」
少女は少し考えて言う。
「多分、ルイスさんの損傷具合を見たからじゃないかな。それで、あの洞窟はヤバいって考えてるんだと思う――。というか、他の冒険者も同じ様な考えだと思うわ。あの一件は地味に冒険者の中で有名だし」
「そ、そうなのか?」
「ええ。勇敢に魔犬の餌になった男って言われたりしてるわ」
「おいそれめちゃくちゃ悪口だろ」
「いえ、みんな褒めてるわよ。百匹以上の魔犬に餌として喰われながらも、生還したって凄いやつって。まぁ、話がちょっと盛られてるけど……。褒めると同時に、その百匹以上も魔犬がいたって噂にみんなビビってるんでしょうね」
それは褒められているんだろうか。
いまいち、嬉しくないというかなんというか。
まぁそれはともかくとして。
「話は大体分かった。その調査依頼、俺も一緒に行くよ」
「ほんとに!?」
疑問点は一通り聞いて解消できたし、行っても死ぬ事はなさそうと判断した。
それにやっぱ、何もせず付いて行くだけで報酬が貰えるって点が魅力的すぎる。
この世の中、金が一番だ。
「ああ。ただ、一匹でも魔犬が出てきたりしたら俺はすぐ逃げるぞ。というか魔犬じゃなくとも、魔物が出てきた時点で逃げるし、俺がヤバそうだと判断した場合でもすぐ逃げるからな。そしてその時は君も一緒に逃げるんだからな? 俺だけだと、逃げてる時に魔物にでも出くわしたら対処の仕様がないからな」
「え、ええ。まあそれでもいいけど、なんか。初めて会った時とは別人みたいにダサい発言ね」
「うるせえ、こちとら割とトラウマなんだよ。あ、それと報酬の割合は俺が八割、君が二割な」
「いやいや、そこは普通に折半よ。ルイスさんは何もしないでついてくるだけなんだし、むしろ半分も貰えることに感謝して欲しいくらいよ」
「冗談だって、全然それで構わない」
実際は半分本気だったが。
「じゃ早速明日、ギルド登録に行きましょ」
「ギルド登録?」
「冒険者になるために、色々と手続きがあるのよ。そこら辺の詳しい話は明日、受付嬢がしてくれると思うわ。だからとりあえず集合時間を決めましょ」
「そうだな。明日は休みだから何時でも」
「んーそれじゃあ朝八時に迎えに行くわ。それまでに用意済ませといて」
「は、はやいな」
朝が苦手だから、魔道具店を昼開店にしてる位なのに。
「何時でもって言ったのはルイスさんでしょ。とにかく八時に来るから、頑張って起きててよ。それじゃ」
そう言ってそそくさと、少女は帰っていった。
そして一人、取り残された俺は。
「折半して七十五万ラックか……。ふはっ、これで借金返済にちょっと余裕ができたな」
そんな独り言を呟いていた。
俺の頭の中は、魔法を教えてもらうことよりも、報酬のことでいっぱいだった。
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