第11話 ファイアボールッ!

「んー……やっぱりルイスさんはイメージが出来てないのかな。もう一回私が実演するから、よーく見ててよ!」


 少女は右腕を前に出し。


「――ファイアボールッ!」


 と唱える。

 すると、少女の右手から凄い勢いで火の玉が前方に放たれた。


「うむむ……」


「さ、今みたいにルイスさんもやってみて」


「お、おう! ……ファ、ファイアボールッ!」


 俺の手のひらからは、ボワっという音と共に火が出てきたが、少女のように火の玉でもなく前方に放たれることもなかった。


「またただのファイアかよっ!」


 俺たちはギルド登録を終えた後、街の外にある野原に来ていた。

 そこで俺は少女から、念のためってことで調査依頼の前にファイアボールを教えてもらうことになったわけだが。

 何度ファイアボールを唱えても出てくるのはただのファイアで、火の玉が出てくる気配が全くなかった。


「ルイスさん、ちゃんと火の玉のイメージと射出のイメージしてる?」


「あ……、なぜか火の玉のイメージはすっかり忘れてたわ……。……けど射出のイメージはちゃんとしてるぞ。なんというか、脱糞みたいなイメージだろ?」


「いや全然違うっ!」


「じゃあ放尿?」


「それも違うッ!!!」


「じゃあなんだって言うんだよ。体から射出っていやあ、それくらいしかねーじゃん」


 はっきり言って、射出のイメージが本当にそれくらいしか思いつかない。

 これ、俺悪くないよな。


「うーん、何て言うか。魔力を手に集めて一気に放つというか。……んーやっぱり……放……尿に近いかも……」


「ほらやっぱり、そうだろ?」


「いいから、とりあえずそれをイメージしてやってみて」


「りょうかーい。えーっと、火の玉放尿火の玉放尿――」


「黙ってやって」


 俺は静かに火の玉と放尿を頭でイメージし。

 手から尿が出てくるイメージが完璧に出来たタイミングで唱える。


「ファイアボールッ!」


 ボワッ、ヒューン。


 俺の右手から明らかにファイアとは違う、綺麗な球体の火が出てきたが、それは加速することなくすぐ真下に落ちた。


「ブハッ」


 少女はこらえきれず吹き出す。


「おいなんだよこれ。これがファイアボールなのか?」


「プッ、プハハハ。わ、分かんないけど――プハハッ、きゅ、球体だったし、ファイアボールではあると思うわっプハハッ」


「笑いすぎ。ぶっ飛ばすぞ」


「ごっごめんフフッ――」


 こいつはもう無視だ無視。


 それより何でこんなことになったか考えよう。

 やっぱり射出のイメージが足りなかったか、それとも何か他の要因があるか。

 とりあえずもう一回試してみるしかなさそうだ。


 今度はもっと完璧に射出のイメージをしろ俺。

 前にグイグイ加速していくようなファイアボールを!


 俺はもう一度ファイアボールを唱えたが、結果は先ほどと同じく真下に落ちた。


「アハハハッ――もう、ダメもう無理しぬ――プハハッハッ――って痛ッ!」


 ムカついた俺は全身全霊のデコピンを少女にお見舞いする。


「笑うのはそのくらいにして、なんでこうなるのか教えてくれないか? 割と射出のイメージは完璧にできているつもりなんだが」


「えー、やっぱり放尿のイメージが悪いんじゃない? それかもしくは、シンプルにルイスさんの才能が無いかのどっちかね」


「才能ねぇ……」


 もう魔法が嫌いになりそうだ。


「まぁ、これから練習を重ねていけば普通に出来るようになるわよ。……ってことで、ひとまず練習はこれくらいにして、昼ごはんにしましょ。そしてそれが終わったら、いよいよ例の洞窟調査よ!」


「ん、俺のファイアボールはまだまだ中途半端な状態なのに、もう行って大丈夫なのか?」


「ええ。念のために一応、先に教えたって感じだし。もとより戦力としては期待してないって言ったでしょ。仮に魔物が来ても私が倒すし安心してよ」


 この少女、頼もしい!

 ってあれ、俺いま馬鹿にされたか。

 あぶねえ騙されるところだった。


「分かった分かった。じゃあそういうことで早く飯を食いに行こうぜ。腹が減って洞窟に行く前に死にそうだ。あ、あとその前に俺たちは金を取りに行かねえと」


 俺も少女も今、金を持っていないから家に取りに帰る必要がある。


「ああ、そういえばそうだった。それ嘘だから、ルイスさんの家に寄るだけで大丈夫よ」


「は? どういうこと?」


「え? いやだから、私もお金持ってきてないって言ったけどそれ嘘だから、私の家には寄らなくても大丈夫だよってこと」


「はっ、なんだよそれ。金持ってるならなんで嘘ついてまで、今朝貸してくれなかったんだよ」


「だって急ぎたかったんだもん。誰かさんが寝坊したせいで出遅れたし」


「うっ……」


 それを言ったら俺が何も言い返せなくなるだろ。


「とりあえず早くお金を取りに行こうよっ」


 そう言って少女は足早に街の方へ歩き出す。


 この少女、最初こそ可憐とか思っていたが全く違ったな。

 一人でも強く生きていけるような、俺以上の賢さがあるやつだ。

 まあ、俺以上に賢いやつなんて世の中たくさんいるが……。


「人って見た目じゃ分かんねぇなぁ」


 そんな事を呟きつつ、俺は少女の背中を追った。


 そして、数十分後。

 家に着いた俺は五百ラックを握りしめて、少女と共にエリアスギルドへと向かった。

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