第6話 洞窟の謎
「話がよく分からないんだが、とりあえず言える事は俺は魔犬を倒してなんかないぞ?」
記憶が正しければ、俺は何も抵抗できずに喰われてただけ。
右腕を最初に噛まれて、痛くて倒れ込んだらそこを一気に他の魔犬たちも襲い掛かってきて。
そして死を覚悟したくらいのタイミングで気を失って。
ただの餌としての働きしか俺はしていない。
「えっそうなの?」
「ああ、だから君の言っている事が理解できないんだ。魔犬が死んでいたってどういう事なのか詳しく教えてくれ」
俺がそう言うと、少女は少しして話し始めた。
「それが、私が助けを呼んでルイスさんの所に戻ってきた時には既に……魔犬たちが死んでいたのよ。最初の三匹だけじゃない、何十匹もの魔犬がルイスさんの周りでね」
「それは……マジな話か?」
「ええ」
俺が気を失っている間に一体何があったんだ?
マジで今思い返してみても喰われてた記憶しかないし、俺の体に毒でもあってそれで魔犬は死んだって事か……?
それに魔石って、魔物一匹につき一個しか取れないはず。
少女が回収してきたこの魔石の量を考えると、本当にとんでもない数の魔犬が死んでいたって事だよな。
俺の体、毒だけじゃなく魔物を引き寄せるフェロモンでもあるのか……?
「ひとまず、魔犬が死んでいたって話は理解できた。ただなんで死んでいたのかが分からんな」
「うーん、魔犬の死体の感じからすると誰かが魔法を使って倒したって事は確実なんだけど……謎なのはその魔犬を倒した理由よね」
「理由?」
「ルイスさんの事を助ける為なら、魔犬を倒した後にでもルイスさんを安全な所か治癒士の所に運べばいいのに、それをせずに放置。お金の為なら魔石を回収すればいいのに、それもせずに放置。それに昨日は魔犬の
単純に俺を守ってくれた……ってわけではなさそうか。
もし俺を守る為なら少女の言っている通り運んでくれてもいいはずだし――。
「あっその倒した子が、俺が重くて運べなかった可能性あるんじゃないか。助けを呼びに行った時とか戻ってくる時に、誰か洞窟に入る人を見なかったのか?」
「んー見てないけど、もしかしたら私が洞窟を出た後にすれ違いで誰かが入ったかもしれないわね」
「じゃあそれだ」
「いやでも運べなかったっていう可能性はかなり低いわよ? 私が戻ってきた時にその子がいないのは変だし」
それもそうか。
仮に運べなかったとしても、それこそ助けを呼ぶとか色々と方法はあるもんな。
うん、考えれば考えるほどよく分からんな。
「もうよく分からんし、恥ずかしがり屋な子が助けてくれたってことでいいや。盗まれた物もなければ、被害も特にないし。理由は何であれ、そいつに俺が助けられたって事は事実だしな」
「そ、そうね。そう考えた方が楽かも」
洞窟の件は本当に謎ではあるが、ここでいくら話してても答えは出ないからな。
それにそんな事よりも結局、魔法を教えてくれるかどうかの方が気になる。
「それで話を戻すんだが……魔法は教えてくれないのか?」
「そう言えばそんな話してたわね。うん、私で良ければいいわよ。教えられる事は少ないかもだけど」
よっしゃ!!!
地味に嬉しい、というかめちゃくちゃ嬉しい。
これで俺もやっと魔法が使えるかもしれない。ファイアボールとかウォーターボールとか色々……。
そう考えると居ても立っても居られない、一番近い休みの日に教えてもらおう。
「よし、じゃあ三日後昼くらいで頼む」
「ここに来ればいいのよね?」
「ああ。店は休みで閉まってるから俺が気付くまで、そこのドアを叩いてくれ」
俺は店の出入り口を指さす。
「分かったわ。それじゃ三日後」
そう言って少女は店を出ようとする。
そこで俺はある事に気付く。
「あれ、そういや君……なんで俺の名前とこの店の住所知ってるんだ? 俺と君は洞窟が初対面だし、それっておかしくないか?」
よくよく考えたらおかしい。
この少女が知っている俺の情報って言えば、容姿くらいなはずだ。
俺の場合は暗い洞窟でしか少女を見ていないから顔が分からなかったが、少女の場合は洞窟を出た後に明るい所でも俺の顔を見ているはずだから、容姿は知っていてもおかしくない。
しかし、俺の名前と住所を知っているのは明らかにおかしい。
洞窟でお互いに名前は名乗ってないし、店の事は何も話していない。
それなのに少女は当たり前のように店に来て、当たり前のように俺の名前を言っているからな。
怪しさ満点だ。
「あーそれね。それは――」
さぁ、どういう言い訳をする!
「それは治癒士に聞いたら教えてくれたわよ」
「はっ!?」
「私が魔石を回収して治癒士の所に戻った時には既にルイスさんはいなくて……。魔石を渡したいし、お礼も言いたいんだけどって治癒士に相談したらすぐ教えてくれたわ」
「そういう事だったのか……」
おいおい、アメリアさんよ。
ちょっと個人情報ガバガバすぎやしませんかね!?
名前はともかく、住所は教えちゃ駄目でしょ!!!
「不快に感じたならごめんなさい。悪気はないわ」
「いやいいよ全然。知ってる理由が気になっただけだし……と、とりあえず三日後よろしく!」
「ええ。またね」
そう言って少女は店を後にした。
「三日後か……楽しみだ」
俺は期待に胸を膨らませた。
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