第5話 何でもする
「まさか、本当に光るなんてな……」
小さい頃、父親から聞いた魔力の感覚。
それと俺の感覚が似ていたから、まさかとは思ったが本当に魔力だったとはな。
正直、今さら何で魔力が俺の体に宿ったんだという疑問もあるが、それよりも気になる事は……。
「魔力があるって事は魔法……使えるって事だよな?」
普通に考えたら使えるはずだが、なんせ今まで俺が普通じゃなかったから分からない。
どんな生物も魔力を持って生まれてくるのが当たり前なこの世界で、魔力を持たずして生まれたのがこの俺だ。
魔力を手にしただけで、肝心の魔法は使えませんってパターンも充分ありうる。
まぁ、考えてても仕方ないし実際に試してみるしかないが。
「魔法ってどうやって使うんだ?」
魔法の授業なんてまともに聞いていなかったからな。
なんかイメージが重要みたいな
「学校で使ってた魔法の教科書も卒業した後、しっかり全部捨てたしなぁ」
せっかく魔法が使えるかもしれないってのに。
ちゃんと授業聞けばよかった。
俺が過去に後悔していると突然、店のドアが開いた。
おっ、客かな?
「ちょっと待っててください!」
そう言って俺は魔鉱石を元あった場所に急いで片づけて、接客をするために立ち上がった。
「お待たせしました! いらっしゃいませ!」
店に来ていたのは、ポニーテールをした赤髪の美少女だった。
赤い瞳に透き通るような白い肌。身長は百六十センチくらいでスラッとしている。
いかにもモテてそうなその美少女は、俺の顔を見るや否や頭を下げて。
「昨日はルイスさんのおかげで助かったわ。本当にありがとう」
そんな事を言ってきた。
「昨日……えっ、ちょっと待って。昨日洞窟にいたのって君!?」
「え? ええ、そうだけど……分からなかった?」
あの赤髪の子がこんな美少女だったとは驚きだ。
想像してた顔と全然違うし、なにより髪型が違うから気付かなかった。
「洞窟の中は暗くて顔がよく見えなかったからな。それに髪型も違うし、全然気付かなかったよ」
「なるほどね。普段はこうして結んでいるんだけど、あの時は魔犬との戦いでいつの間にかほどけてたみたいなの」
まさか髪型一つでここまで雰囲気というか印象が違って見えるなんてな。
昨日は、まさに戦う女! って感じだったのに今日の雰囲気はなんというか可憐、だな。
顔も綺麗でスタイル良いし、とても魔物と戦うような少女には見えない。
まぁ、それは置いといて。
「昨日の洞窟の件に関しては、俺がありがとうって感じだよ。香水は詐欺だったし、君と会ってなかったら遅かれ早かれ俺は死んでたからな……」
宝探しをしている間、魔物が一切現れなかったのはもちろん香水のおかげなんかじゃなく、恐らくこの少女が魔物を倒していたからだ。
そう考えると、少女と会っていなかったら……いやそもそも少女が洞窟に来ていなかったら……。
想像するだけで恐ろしい。
本当に少女には感謝しかない。
しかし少女は首を横に振って言う。
「
「へっ? 謙遜なんかじゃないんだが」
なんで謙遜なんて思うのか。
どう考えても俺の方が助けられてるだろ。
「まぁ、謙遜でも謙遜じゃなくてもどっちでもいいわ。私が助けられたって事実は変わらないしね」
「いやだから謙遜じゃないっ――」
俺が否定しようとすると少女はそれを遮るように話す。
「と、に、か、く! 私は助けられた。つまり今、私はルイスさんに一つ借りがある状態よ。そして私はその借りを返したい。そういう事に関してはしっかりしたいの」
「は、はぁ」
「だから私にできる事なら何でも言って。一つだけなら何でもするわ」
少女はどんと来いといったような表情をしている。
なんだろう、この馬鹿正直というかなんというか。
俺が言うのもなんだが、なんか人にすぐ騙されてそう。
「よーし分かった。何でもいいんだな?」
「私にできる範囲ならね」
「それじゃあ……」
俺がこの少女にして欲しい事。
それは一つしかない。
「五百万ラックくれ」
今の俺の状況でこれ以外に選択肢はないだろう。
借金返済分の三百万ラックと自分の貯金に二百万ラック。
「それは無理ね」
「なんで!? 何でもするって言ったじゃん!」
「いや、五百万ラックは流石に高すぎるわよ」
「じゃあ四百万」
「百万減っただけじゃない」
「じゃあ三百万」
「無理」
「じゃせめて二百っ――」
「無理よ。私もお金は全然持ってないの。だからお金以外にして?」
「お金以外つったってなぁ……」
今俺が欲しいのはお金以外に一切ない。
あ、常連客は欲しいか。
ただ、この少女に常連客になってくれって言うのもなんか違うしな。
「うーん…………。あっ、そうだそうだ!」
そういえば丁度、俺がして欲しい事があったじゃないか。
「なにか考え付いた?」
「考え付いたよ。俺がして欲しい事、それは……。魔法を教えてくれ!」
「えっ、魔法?」
「ああ!」
せっかく魔力を手に入れたからにはやっぱり魔法を使ってみたい。
しかし大人になって魔法を学ぶには魔法の先生を雇うか、魔法の本を買って独学でやるしかない。
前者はお金がかかるし後者は時間がかかりすぎる。
だから誰かに無料で教えてもらうのが一番いい。
そう、この少女に!
「私が教えられる事なんてないと思うけど……」
「はっ、どういう事? 君、魔法使えるんだよね?」
「ええ。けどルイスさんに教えられる事なんて一つもないわよ」
意味が分からない。
この少女は俺に謙遜をしているのか?
「なぜ?」
「だってルイスさん、私よりもかなり強いでしょ?」
やっぱり謙遜か。『謙遜やめて』とか言ってたくせに自分はするのか。
俺はため息交じりに言う。
「その謙遜の仕方はむしろ煽りに聞こえるぞ」
しかし少女は真っ直ぐな目をして答える。
「煽りじゃないわ、本心よ」
本心って、何を根拠に俺が強いって言ってんだ。
少なくとも魔法が一切使えない俺よりは、魔法が使える少女の方が強いだろう。
「そんな真っ直ぐな目で言われてもな……。昨日言っただろ、俺は魔法が使えないって。そんな俺のどこが強いんだ?」
「そうそれ、気になっていたのはそこよ! ルイスさんも魔力切れを起こしていたのに、どうやって魔犬を倒したの?」
そうか、そもそも《魔法が使えない》って所に認識の違いが出てるのか。
この少女は恐らく、俺が魔力切れを起こしていたから『魔法が使えない』って言ったと思ってるんだ。
確かに生まれつき魔力がないって人、俺以外に見たことも聞いたこともないからな。
魔法が使えないなんて聞いたら、真っ先に魔力切れを思い浮かべるわなって――。
「ちょっと待て。魔犬を倒したってどういう事だ?」
「シラを切るつもり? なんで知らないフリをするのか分からないけど、これを見たら言い逃れは出来ないわよ――」
そう言って少女は手に持っていた袋を渡してきた。
「これは……?」
「中身を見て」
俺は袋を開けて中を確認した。
中には大量の魔石が入っていた。
「ま……せき?」
「そう。ルイスさんの周りで死んでいた魔犬たちの魔石よ。助けてくれたお礼の一つにでもなるかなって、今朝回収してきたのよ」
「は? 待て待て待て。俺の周りで魔犬が死んでいた……?」
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