第2話 赤字店主

 ――さかのぼること数日前。


「はぁ……」


 俺は店のカウンターにひじをついて、閑散かんさんとした店内を眺めていた。


 俺の名前はルイス、十八歳。

 二年前、死んだ親父から引き継いだ魔道具店を営んでいる。


 店主が俺になってからは客がだんだんと減って、一年ぐらい前からは常連さんの数も減ってしまった。


「魔法が使えない男がやる魔道具店なんて、やっぱ信用ないよなぁ」


 そのせいでずっと赤字続き。

 今までは親父が稼いでいた金でなんとか工面していたが、そろそろ底をつきそうだ。


「このままじゃ店を畳むことに……」


 いやいや、それだけは絶対にできない。

 親父の形見ともいえる店を手放すなんて、絶対にできない。


 しかし、このまま赤字が続けば貯金は無くなって家賃が払えなくなり、どのみち強制的に店を手放すことになってしまう。

 だから早急に打開策を考えなければならない。


「あーもう、どうすればいいんだよ親父!」


 文字通り頭を抱えていると。


「ごめんくださぁい」


 大きな袋を持った婆さんが店にやって来た。


「あ、いらっしゃいませ!」


 見たことのない婆さん、新客か。


「あらあら元気の良いお兄さんなこと」


「いえいえ、元気だけが取り柄ですから」


「そうかいそうかい」


 久々の新客だ。

 どんどん積極的に話しかけていって、何か買わせなきゃな。


 俺はカウンターを離れ、婆さんに近づいた。


「お姉さん、この店は初めてですよね! 当店、質のいい魔道具が沢山ありますよぉー! 例えばこの指輪。とにかく質のいい、綺麗な鉱石こうせきを使った指輪となっていまして、お勧めの商品となっています! 値段は少々お高めですが、お姉さんに似合うと思いますよ!」


「あらっお姉さんだなんて、口がお上手ねぇ。もうあたいはお姉さんなんて歳じゃないよ」


「そんな事はないですよ、お姉さんはお姉さんです! そしてそんなお姉さんにはこの指輪がとても似合いますよ!」


 俺が指輪をゴリ押ししていると。


「あぁ、すまんのう。今日は買いに来たんじゃなくてな」


 そう言って婆さんは俺の横を通り過ぎて、カウンターで止まった。

 それから婆さんは持っていた袋を開けて、その中身をカウンターに置き始めた。


「え」


 俺はその発言と行動に理解できず、数秒間止まっていた。


 何をしてんだこの婆さん。


 婆さんは、色とりどりの液体が入った透明な容器を黙々もくもくと置いていた。

 容器の大きさは手に収まるくらいだ。


「ちょっとちょっと、何をしてんすか」


 我に返った俺は婆さんの動きを制止した。


「なんじゃもうちょっとで終わるから待ってくれい」


「いやいや、もうちょっとで終わるとかじゃなくて、何をしてんすか」


「もうちょっとで終わるから、もうちょっと、もう先っぽだけ」


 婆さんは俺の手を払いのけ、また容器を並べ始めた。


「本当に勘弁してくださいよ。何も買う気がなくて、ただ仕事の邪魔だけをしたいなら他所よそでやってくださいよ……」


 俺はため息交じりに言ったが、婆さんからの返答はなし。


「はぁ……」


 もう強制的につまみ出そう、そう決意した瞬間。


 容器を並べ終わったのか、婆さんの動きが止まる。

 そして、婆さんは両手を大きく広げて。


「さぁ、よってらっしゃいみてらっしゃい! これらは摩訶不思議まかふしぎな効果を持った香水じゃよ! お兄さん興味はないかい!?」


 そんな事を言ってきた。


「……は?」

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