第9話 俺はお前から逃げられないし、お前は俺から逃げられない

「お待たせしました。査定が終了しました。

 今回の功績をもって、ルカさんはランキング83位、ミズキさんはランキング87位に浮上しました。

 これをもって、ミズキさんの降格点は1つ消滅します。

 もう1つの降格点を消すには、半年以上D級(90位以内)を維持するか、C級以上(70位以内)に昇格することが条件となります。

 今後とも、頑張ってください」



 冒険者ギルドに常駐している勇者管理委員会スタッフの説明を受け、俺達は頷く。

 よし、とりあえず俺で勇者資格消滅の危機は当面遠のいたな。


 ほっ。安心。

 自分へのご褒美的な感覚で、アイスコーヒーのおかわりと、チーズケーキを注文する。

 それを見たミズキも羨ましくなったのか、ハーブティとケーキを頼んでいた。

 いいさ、今日くらいは奢ってやる。



 亡霊将軍を倒したあの後。

 俺達は無事、町に帰還していた。


 あの紫の魔力の塊については正体がいまいちわからなかったが、とりあえず手持ちの魔石に魔力を吸収させることができた。

 それから帰還の宝珠を使用したら、普段の迷宮ダンジョン脱出と同様、迷宮ダンジョンの入口に帰還できた。



「しかし、意外と渋いですね。ランキングの上がり方が」


「ああ、まあ功績のすべてを報告したわけじゃないからな。

 提出した魔石も、ワイトキングを倒した時までの物だけだし」



 そう。俺達は亡霊将軍との戦いについて、ギルドに報告しなかった。


 あの時の出来事が全く理解できなかったのもあるし、転移の条件も謎だ。

 仮に転移の条件が発覚した場合、他の勇者が他の迷宮ダンジョンで真似しても危険だからな。



 転移先には亡霊将軍のような恐ろしい魔物が控えている、と言ってしまったら。

 どうやってそんな恐ろしい相手を倒したのだお前たちのような落伍者が、と追及されてしまうだろう。



「それにしたって渋すぎませんか?

 C級ボスのワイトキングを倒しただけでも、もうちょっとあがらないものですかね?」


「生まれて初めてダンジョン攻略した奴がよく言うぜ。

 D級も、80位以内くらいの連中はまあ大抵の奴は小さな迷宮ダンジョンくらいは攻略経験があるもんだ。

 俺達は勇者二人で攻略してるからな。手柄が半分になってるわけだから、まあこんなもんだって」



 実際ミズキのD級昇格は若干ギリギリだ。これまでの実績がなさすぎるから。

 念のため、ワイトキング戦で多めに雑魚を倒して魔石を稼いだ甲斐があった。

 魔石の納品もランキングに影響するからな。



「でもやっぱり納得いきませんよー。

 私たちはS級勇者が負けた相手を倒したんですよ?

 ならもう今日からS級でいいじゃないですか」


「だから亡霊将軍を倒したことはオフレコなんだってば。

 焦らなくても、俺達ならこれからいくらでも上がっていけるって」



 恨めしそうな顔をするミズキに、俺は自分のチーズケーキをスッと差し出す。

 一瞬にしてパッと表情を輝かせるミズキだが、我に返ったのか、顔を赤らめながらコホンと一つ咳を入れた。



「いいじゃないですか。

 私たちの権能のシナジーで、規格外の能力を得たことを公表してしちゃえば。

 そうなれば世間も私たちを軽視できなくなりますし、優秀な冒険者が集まるんじゃないですか?」


「それで集まる連中ってのは、権能目当ての連中だろ。

 いやまあ冒険者はみんなそうだし、勇者だって冒険者の戦力目当てだからお互い様だけどさ。

 でも、優秀な冒険者が集まって、俺の能力で才能を発見、開花、発展させて、6.8倍のスペックで戦ってもさ。

 より良い条件が見つかったから出ていきます、みたいなのがオチだろ。

 もう嫌なんだよ俺は。そういうの。

 いい加減懲り懲りだぜ」



 アイスコーヒーをガボガボと飲みながら、嫌な思い出を思い出す。


 じー。

 ミズキがそんな俺を、据わった眼で見ている。



「私はいいんですか?別の美味しい話があったら逃げ出すかもしれませんよ?」


「まあなあ。

 でもそこはしゃーないだろ。

 それについては信じるしかないし、裏切られるリスクやコストは織り込み済みだ」


「へえ。随分信用されているんですね。

 私は特段ルカのこと、信用してないですよ?

 まあ、亡霊将軍との戦いでは見直しましたが」


「それはお互い様だ。

 ……まあ、あの戦いじゃあ、真面目な話相当助けられたよ。

 お前がいなきゃ、何度も死んでた。ありがとよ」


「やめてくださいよ気持ち悪い!

 私は私の都合でアナタに死なれては困ると判断しただけです!

 勘違いしないでください!」



 もともと利害関係だけを求めて組んだコンビだ。

 センチメンタルな部分がない分、かえって気楽にやれそうだ。


 それになにより……。



「そもそもさ……わかるだろ?

 

 だったら心配する必要もない」


「……まあ、それもそうですね」



 そうなのだ。


 俺とミズキのコンビは、互いが揃ってこそ実力を発揮する。


 まず俺は、ミズキの”勇者の呪い解除”が無ければ先日までの落伍者状態に逆戻りだ。

 “才能発展”や”武神闘法”といった能力も、「勇者(俺)が勇者(俺)に勇者権能を使用する」という異常事態の産物だ。

 ”勇者の呪い解除”を外された途端、開花させたこれらの能力も、”才能発展”の効果もすべて消え、先日までの権能と同じ状態に逆戻りだ。



 ミズキにしたってそれは同じこと。

 彼女の”解除人数増加”は俺の”才能開花”の賜物だからな。

 俺を”勇者の呪い解除”の対象から外してしまっては消えてしまう。そうなればまた、自分か他人を1人しか解除できないため、権能の重複使用という旨味がなくなる。

 俺の”才能発展”の効果もなくなるため、折角パワーアップさせた各種権能やスキルもまた弱体化されてしまう。



 要は、お互い相手を裏切ってしまったら、自分自身が大きな損失を被る状態って事だ。

 これなら相手を追放しようにも追放できないから、落ち着いて安定したパーティで戦っていけるってもんだ。



 ……厳密にいえば、俺以上にミズキの権能を有効活用できる権能の持ち主に出会ってしまったら、その限りではないけど。

 亡霊将軍を倒したことを秘めているのは、ミズキに世間の注目を集めたくないって利己的な理由もある。

 よりよい勇者がミズキに目を付けたら、俺はまた底辺に逆戻りだ。



「ま、ランキングのことだけど。焦らなくていいだろうさ。

 実際上のレベルで戦うにはまだまだ力を付けなくちゃならない。

 特にミズキはフィジカルが弱すぎる。まあ、1か月も鍛えれば問題なくなるだろうけど」


「1か月?そんなに早くですか?」


「勇者の鍛錬は他の鍛錬とはワケが違うからな。


 で、ランキングだけど。

 今回みたいな中規模レベルの案件をいくらこなしても、ランク向上は頭打ちしちゃうんだよな。

 50位の壁って言ってな。

 危険度B級以上の魔族を討伐しないとなかなかそれ以上には上がれない。

 ドラゴンやマンティコアや……それこそ、”魔人”とかな」


「”魔人”ですか。

 実はそれについてよくわかってないんですよね。

 ”魔人”って結局どういう存在なんですか?」



 おいおい。

 子供でも知ってるような常識だぜ?

 どこで育ったらこの程度のことを知らずに生きてこられるんだ?



「”魔人”ってのは、魔族たちにとっての俺達勇者みたいなもんだな。

 あっちはあっちで、1位から44位までランク付けされているらしくてな。

 これに挑むのは当分先になるだろうけど……。

 ただでさえ強靭な魔族が、俺達の”勇者権能”みたいな能力まで持ってるっていうんだから」


「か、勝てるんですか?そんなもの。

 とても人間が太刀打ちできる相手じゃないんじゃないですか!?」


「まともに激突すると、人間側がやられちまうことが多いみたいだな。

 それでも、A級ーーーー30位以内にもなると大半が魔人を倒した経験を持っている。

 複数の勇者で連帯して倒した、みたいなケースもあるが……。


 それでも、S級勇者は全員”魔人”を単独撃破している。

 だから、”魔人”は危険度Sに分類されているんだ」


「単独撃破……特A級の亡霊将軍を相手に全滅寸前だった今の私達では、かなり困難でしょうね」


「……”シングラーの条件”って言葉があってな。

 S級の中でもランク一桁、つまりミランダ以外の9人の共通項として、ある条件を満たしているんだ。

 それは、『魔人5人以上か、もしくはランク一桁の魔人を倒したことがある』ってやつでな。


 勇者ランキング1-9位のシングルランカー。いわゆる”本当のS級”に入るのは、その条件を満たす必要があるってのが昔からの定説だ。

 歴史上も、例外はチラホラあれど、大体そうやって運用されてきたみたいだぜ?

 ……現役で両方の条件を満たしているのは、流石に3位以内の3人だけらしいんだが」


「……S級やばいですね」


「まあ、俺達ならその内食い込めるさ。

 ……今の1位の勇者は、『ランク一桁の魔人を5人倒した』っていう桁外れの実績があるが、これはまあ例外として。”シングラー・オブ・シングラー”って異名を聞いたことないか?」



 ミランダは”シングラーの条件”を満たしていない。

 半年前の魔界遠征は、その条件を満たすための挑戦だったんだろう。

 そして今も、俺のかつての仲間達と共に、魔界との最接近領ーーーーいわゆる”魔境”を拠点に挑戦の機会をうかがっているとの話だ。



「それで、ルカ。

 例の刀はどうなのですか?」


「これな。思ったよりも手こずりそうだよ。

 呪いの強さが異常だ。とても普段使いできる性能じゃないな」



 亡霊将軍から奪ったこの妖刀。

 強力な怨霊が大量に取り憑いており、迂闊に使うと乗っ取られてしまいそうだ。


 “武神闘法”を使用した状態で”メギド・ブレード”の神火で押さえつけて、なんとか使えるって感じ。



「もう処分したほうが良いのでは?

 その刀に固執する理由もないでしょうに」


「とはいえ威力が抜群だからな。

 他のマトモな刀を調達しつつも、こいつを解呪する方法を探るさ」


「探ると言っても、アテはあるんですか?」


「ある。

 それには、ミランダの固有権能が鍵になる。

 だから、魔境に向かうぞ。もう一度、あいつに会う必要がある」



 ふぅ。

 ミズキがことさらに肩をすくめて見せる。

 なんだよ。



いさぎの悪い男ですね。

 追放された仲間たちにまだ未練があるのですか」


「違うっての!俺はあくまでミランダに用があってだな!」


「なるほど未練があるのはミランダさんでしたか。

 振られた女を諦めきれずに地の果てまでストーキングとは、やれやれとんだ性犯罪者予備軍とコンビを組んでしまったものです」


「だから違うっての!

 別にミランダとはそんなんじゃあねえよ!」



 こいつなんか勘違いしてるだろ!

 確かにミランダとは同郷の幼馴染だけど、別にそういうことがあったわけじゃないっつーの!



「ま、いいでしょう。

 どうせ高レベルクエストも上等な装備品も、魔境のあたりまでいかなければ手に入りませんしね。

 刀を買うにしても魔境で業物を購入するのがよいでしょう。幸い、お金なら例の紫の魔力を換金すれば、大概のものは買えるでしょうし。

 では、次の目的地は魔境ですか?」



 魔境は人類対魔族の最前線だ。

 自然と、最上級の武具や戦いはそこに集う。



「いや、その道中にソラリスって町がある。

 最近そこにデモンズ・ドラゴンが出現して、勇者たちに召集がかかっている。

 S級や上位A級は魔境にかかりきりだが、30-50位くらいの勇者が集まって対応策を練っているらしい。


 そこに行こう。手柄は俺達が横からかっさらうぞ」



——

次の話で第一章完結です。

「面白い」「続きが気になる」「二章も読みたい」など、是非是非感想を応援コメントやレビューで書き込んでください。

そろそろお待たせしているモブ底辺第二章も更新しなきゃですね。


少しでもご期待頂けるなら、是非とも広告の下の「☆☆☆」の横の「+」をタップして「★★★」にしてやって下さい!(´;ω;`)


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