第6話 大丈夫かなあの子
この
危険度Cに分類されるモンスターだ。
自身の戦闘力は同レベル帯では控えめだが、その能力が凶悪。
ボス部屋に無限にスケルトン・ウォリアーを召喚し続けるという性質を持っているのだ。
俺が別の
あの時はルシードのいないパーティで、俺が前衛を務めながら何とか倒したんだよな。
みんなの平均レベルも12-3くらいだったか。
いや、当時はかなり苦戦した。
先端が頭蓋骨みたいなデザインの錫杖での攻撃はかなり重く、防御に徹してもガシガシ体力が削られて。
まだティムの魔獣が未熟なもんだから、湧き続けるスケルトン・ウォリアーを狩り切れなくてなー。
エランドがあのビール腹を揺らしながらザコを引き付けて時間を稼いでくれたんだよな。その最中にも隙を見て
マージの合成魔術もまだまだ威力が低くてなかなかワイトキングを倒しきれなかったんだよな。
なのにあいついちいちカッコ付けながら魔術を放ってさ。「ジ・エンドです」「今度こそジ・エンドです」「ジ・エンドっていってるでしょおぉっ!!!」「アアアアアアっ!!!」みたいにキレ散らかしてたんだよ。
あの時は死に物狂いだったから笑う余裕なかったけど、今思い出すとウケるなあいつ。
「ルカ?」
「ああ、すまん。じゃ、とにかく行こうか」
今さらこんなことを思い出しても仕方ない。
今の俺はミズキと組んでやっていくしかないのだ。
ガチャン。
ボス部屋の扉を開ける。
パッと開けた広い室内。
その奥に、一体の亡者が待ち構えている。
すすけた王冠に、どくろの錫杖。不潔そうなボロボロのローブ。
肉も皮もない躯だが、眼の中にはどこまでも深い漆黒が宿っている。
D級勇者泣かせの厄介ボスモンスター。
ワイトキングの登場だ。
「いくぞっ!」
まずは先制攻撃だ。
腰のロングソードを抜いて、炎の魔術を発動する。
「エンチャント・ウェポン!」
ロングソードの刀身が赤く染まり、微かに炎が漏れ出てくる。
これで破壊力も大幅に向上し、攻撃に炎属性も乗る。
やや上級の炎魔術だが、全属性魔術:中と火属性魔術:中の重複効果でこのくらいの魔術行使は可能になっている。
ダン!!!
地面を蹴り付けた次の瞬間には、十数メートル先にいたはずのワイトキングに肉薄していた。
この速度にはさすがのボスモンスターも動揺したらしい。
なんか「想像より6.8倍早い!?」みたいな顔して固まっているところに、渾身の横投げを叩き込む。
狙いは錫杖を持つ両腕。
パキァン!
小気味よい音を立てながら、ワイトキングの両腕が粉微塵に砕け散った。
ご自慢の錫杖が、カランカランと床に転げ落ちる
ワイトキングはと言うと、「嘘!?想像より36倍強烈!?」みたいな顔をして呆けているので、お構いなしに奴の右膝を踵で踏み抜いてやった。
パキィン!
骸骨の右膝は呆気なく粉砕し、あえなく床に崩れ落ちる。
ちぃと、カルシウムが足りてないんじゃないか?
「フンっ!」
「ガ、ギギギっ!?」
すかさず顔面にサッカーボールキックを叩き込むと、ゴロゴロなすすべなく後方に吹っ飛んでいく。
顎の下を蹴り砕いた感触があった。
これだけやってもまだ死なない。
奴の弱点というか本体は後頭部から脊柱、仙骨にかけてだ。そこを破壊しない限り消滅することはない、が……。
「呆気ないもんだな。なんだか悲しくなるぜ」
当時あれだけ苦戦した相手が、このザマか。
本当に、勇者権能ってやつは身も蓋もない。
とはいえ本番はこれからだ。
このためにわざわざ、死なないように手加減してやったんだからな。
「ミズキ! そろそろ出てくるぞ!
エンチャント・ウェポンを忘れるなよ!」
「はい!」
ミズキも水属性魔術を行使して、愛用の
そして周囲を見渡しーーーーパカン!
床から、壁から、天井から無作為に出現するスケルトン・ウォリアーを次々に破壊していった。
「背後に気を付けろよ!どこから出てくるかわからないからな!」
これこそがワイトキングの特殊能力。
次々出現するスケルトン・ウォリアーの物量に押され、戦線が崩壊する勇者パーティは多い……の、だが。
正直に言って、俺達にとってなんの脅威でもない。
たった二人のパーティだが、それでも殲滅速度が出現速度を上回っている。
これでは不覚の取りようがない。
パカン!パキン!と。
数秒に一体というペースでどんどん雑魚モンスターを狩り散らしていく。
その間、ダメージが深いワイトキング自身は戦闘に参加することができない。
これこそが、この
経験値稼ぎ放題の超効率的レベルアップ。
加えて、剣術や斧術の実践練習に最適な環境だ。
生きた試し切り相手には事欠かないからな。権能やスキルの自動身体操作に身を任せて観察しているだけで、メキメキと腕前が上がっていくのを感じる。
が、こんな辺境じゃあC級ボスのワイトキングを倒せる奴なんてそうはいない。
ボスの目撃情報が出てからずっと、ああ、こいつを相手に無双できるくらいの実力があれば経験値稼ぎして成り上がれるのにな、なんて考えながら自堕落に過ごした日々が役に立った。
まあ普通、無双できるくらいに実力差のある魔物じゃいくら狩っても経験値効率が悪すぎるもんだが、俺達の場合は権能やスキルで戦ってるからレベル上げには全然美味しくいただける。
「ミズキ!エンチャント・ウェポンを切らさないようにな!」
「わかってますよ、ルカ!
ああ!それにしてもこんなに簡単に魔物狩りができるなんて!」
ぶっちゃけ、エンチャント・ウェポンなんてなくてもこの程度の相手は一撃で倒せる。
わざわざ魔術を使っているのは、武器の保護のためだ。
俺達の腕力は今メタメタに上がっているからな。下手に使うと武器が耐えられない。
俺の剣もたいした品じゃないが、ミズキの斧とか酷いからな。
日用品に毛が生えたような性能しかないし、雑に扱えば一発でおシャカだろう。
パキィン!パキィン!
パカァン!パカァン!
剣が、斧が、骸骨どもを粉砕する音が鳴り響く。
「ア、アハハハ!
壊れろ、壊れろ!オラっ!」
爽快感を伴う単純作業を継続して三昧境に入ったのか、ミズキのテンションがおかしくなってきた。
「人生!オラ!社会!オラ!
なんぼのもんじゃい!オラオラオラ!
小学校の時の、遠足の班決め!オラ!
中学の部活の、レギュラー決めの投票!オラ!
壊れろ!この!裏切者!裏切者!
アハハハ!オラ!どうだ!
私を馬鹿にして!どいつもこいつも!見たか!オラァッ!」
大丈夫かなあの子。
なんか相談に乗ってあげた方がいいような、深い部分には絶対に立ち入らないほうがいいよな、なんとも言えない気分になる。
そんなこんなで1時間ほどだろうか。
もはや数え切れないほどのスケルトン・ウォリアーを倒し、レベルの伸びも鈍化しきっていた。
この辺が潮時だろう。
「あばよ、王様。
苦しめて悪かったな」
瀕死の上体でうずくまるワイトキングに止めを刺すと、周囲のスケルトン・ウォリアーも消滅する。
ミズキはそれでもしばらく気付かず、虚空に向かって斧を振り続けていた。超こええ。
まあ彼女の心の闇はどうでもいい。
目論見通り、俺の勇者レベルは9→10、冒険者レベルは11→15に、ミズキも勇者レベル8→9、冒険者レベルが14→16に上がった。
これだけ上がれば、大抵の相手に力負けすることはないだろう。
ランキングも多分これで上がる。
戦闘力も確保したし、これからも上がり続ける。
戦利品の魔石で当面の資金も確保できた。
俺達の前途を祝うような、百点満点の最高の滑り出しだ。
ーーーー
で、事後処理だ。
折角倒しまくった魔物だが、ちゃんと魔石を回収しなければ俺達の収入にはならない。
といっても大量の石をジャラジャラと持ち歩く必要はなく、魔石同士を接触させれば勝手に合体して高純度高密度の魔力の塊に圧縮されてくれるので、かさばることはない。
これを町の冒険者ギルドに売却すれば一丁上がりだ。
ギルドは回収した魔石から魔力を抽出し、それを町の生活の動力としたり、自然に返したりする。
余談だが、大昔はダンジョンのボスを倒すことが禁止されていたそうだ。
ボスを倒してダンジョンを消滅させてしまうと魔石と魔力が回収できずに生活が不便になるというのが理由だが……これには恐ろしい罠が秘められていた。
実はダンジョン自体が、魔族が人間界侵攻の為に仕掛けた兵器であることが発覚したのだ。
ダンジョンの機能が、仕掛けられた土地から永久にエネルギーを吸い続けて魔界に転送しているのだ。
魔石などはその残り滓にすぎない。
そのため、ボスを駆除されずにダンジョンが残った土地はいずれやせ衰え、魔族以外誰も住めなくなる。
なので、放置していては国土や国力が削ぎ落される上に敵国に利益をもたらしてしまうダンジョンは、現在の勇者にとって最優先で排除の対象だ。
当然勇者ランキングにも大きく寄与する。
「これで全部拾えましたかねー」
「いや、まだあの辺に大量に落ちてるな。
ちょっと倒し過ぎたか。回収作業のことは全然考えてなかった」
部屋中に散らばる魔石を這いつくばって拾い集める勇者二人。
情けないが、これでメシを食っている以上仕方がない。
堕ちた魔石は放置しておけばやがて大地に吸収されて土地の力になるというが、それでは俺達がギルドから報酬を受け取れない。
「ん……何ですか、これ」
「どうした?」
ミズキの元に行ってみると、妙な色の床があった。
部屋の隅も隅。その部分の床が、なんだか他とは混じらない、掘り返されたようなもろそうな雰囲気になっている。
「ちょっと掘ってみるか」
普段、ボス部屋をこんなに探索することはない。
普通はボスを倒したらそれを使ってさっさと帰るもんだ。大抵ひどく消耗しているからな。
雑魚敵を倒し過ぎて、長時間床を這いつくばって探し回りでもしない限り気付かないだろう。
「お、なんだこりゃ。魔石の一種か?」
土の下から出てきたのは、怪しげな気配を放つ紫の水晶だった。
「綺麗……ですね。隠しレアアイテム的なものでしょうか。
でもなんだか、不穏な気配がします」
「へえ。とりあえず持って帰ってみるか」
「あ、ルカ!?
変なものを迂闊にクリックするのは危険……!」
ミズキの静止もむなしく。
俺が無造作に紫水晶に手を伸ばした瞬間。
ブォォォォン……!!!
水晶から膨大な魔力が放射され、俺達を包んだ。
ーーーー
「こ、ここは!?」
気付けば俺達は、薄暗い見知らぬ空間にいた。
外傷は……ない。
うん、ないな。念のため身体中をまさぐってみるが、可笑しなところは何もない。
「転移魔術……か?さっきのは。
一体どこに飛ばされちまったんだ?」
全体的に暗い部屋だ。壁が見えないくらいに広い。
だがその中心(?)で、大きな、紫色に眩く輝く球体が中に浮かんでいる。
膨大な魔力を感じる。あれは一体……?
そして何より。
その球体の目の前に。
まるでそれを守護するかのような、一体の魔物が鎮座している。
「嘘……だろ?」
「ルカ……あの魔物は?」
強制転移された俺達の前に立ちはだかる怪物。
東方の島国の鎧装束に身を包んだサムライだが、よく見ると鎧の中が空洞なことに気づく。
周囲を飛び交う迷える死霊。禍々しく青光りする妖刀。
なにより、高密度に圧縮された闇属性の魔力。
びりびり、びりびりと放射される圧力に、肌が泡立つのを感じる。
鎧の中身はちきれんばかりに圧縮された、その魔力こそが奴の本体なのだと気付く。
不安げに敵を指さすミズキに、俺は返答する。
固唾を飲みながら。
「……『亡霊将軍』。魔界本土にしか出現しないはずの、危険度超A級モンスターだ。
なあ、ミズキ。ミランダってS級勇者を知ってるか?
そいつが半年ちょっと前に強豪モンスターに挑んで、敗走したってニュースがあってさ。
その件を機に、彼女の仲間だった冒険者が戦意を喪失してパーティを解散して、人員補充しようとして、まあその結果俺の立場にも色々関係したりしたんだけどさ。
ーーーーその時の相手が、あの『亡霊将軍』だ」
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