世界唯一の育成能力者だけど、パーティ追放されたモブ冒険者を集めて才能開花させて最強パーティを結成したら「もう用済みだ」って俺が追放された件 〜やっぱ追放される奴って人間的に問題あるわ(俺も含めて)〜
第5話 私は痛いのとか苦しいのは嫌いなんです。それでも強くなれますか?
第5話 私は痛いのとか苦しいのは嫌いなんです。それでも強くなれますか?
そんなわけで翌朝。
俺とミズキは町はずれの
「あ、あの。
なんか無理やり連れてこられたんですが、何が始まるんですか?
私はもう諦めてるんですが……」
「まあそう言うなよ。
ミズキの降格期限は2日後だろ?
今日と明日でこの
この
ランキングで言えば60-70位代の勇者がパーティを組んで入念に準備して1-2週間アタックをかけ続けて攻略するくらいのレベルだろう。
もちろん今の俺達のランキングやパーティ体制から見ればかなり無謀な高難度。
王都から離れて辺境でうらぶれていた俺達には選択肢が少なかったこともあるが、別の事情を鑑みてもこのダンジョンが最適なので選んだ。
むしろこんな都合の良い物件がよくも都合よく近くにあったもんだ。
昨日の今日なんで、ロクな準備もしていない。
精々薬草を買い込んだぐらいで、装備品も貧弱なままだ。
ミズキとか、最安価な小型の片手斧だしな。
色々買い替えたいが、先立つものがない。
まあ金はこれから稼げばいいし、ランキングが上がれば勇者ローンも借りやすくなる。
「ム、ムリですよぉっ!
今まで、もっと低難度のダンジョンでも全然攻略できなかったんですからぁっ!」
「いいから俺についてこい。
口で言うより実践したほうがわかるだろう。俺がお前を勝ち組にしてやる」
お構いなしに暗い
短く念じ、初級光魔術”ライト”を発動。視界を確保する。
余談だが、光魔術の適性を持った冒険者はほとんどいない。
この照明も一応全属性の魔術を使える”勇者”の専売特許みたいなもんだ。
片手を
頭を振って雑念を排除する。
落ち着け、集中しろ。命懸けの冒険の最中だぞ。
この
純粋に
あわあわと震えるミズキを引き連れ、歩き始めて五分。
そろそろかな、と思っていると。
カサカサっ!
「出てきたな」
「ヒ、ヒェェェっ!」
出現したのは3体のスケルトン・ウォリアー。
片手剣と片手盾で武装した骸骨剣士だ。
「この
こいつらもまあ、冒険者レベル10くらいの近接系の冒険者が、能力向上2倍の勇者権能を受けて互角、くらいかな?1対1で数分かけて倒せる感じだろうね。
よし、ミズキ。こいつら3体、1人でやっつけてみろよ」
「ええええええっ!!!?
ムリですムリですムリですっ!殺されちゃいますよぉっ!」
「いいから行けって。
大丈夫大丈夫大丈夫。今までのお前とはワケが違うから。
ヤバくなったら助けに入るから、とにかくやってみろって。
……逃げようとしたらブン殴るからな。早く行け」
怯えるミズキの背中を蹴り飛ばし、
「うっうっうっ。なんでこんな目に……!
ホント最悪ですよこの世界!クソ!もうどうにでもなれですよ!
こなくそー!」
こなくそーとか言いながら突っ込むミズキ。
破れかぶれで振り回す片手斧だが、その実見事に精密で鋭い軌道を描きーーーー
ーーーーガガガッ!
横薙ぎの一振りで2匹のスケルトン・ウォリアーを粉砕した。
「……へ?」
おそらくミズキには何の手応えも感じなかっただろう。
目の前で起きた出来事が理解できず、呆けたような表情をしている。
「まだ1匹残っているぞ!」
声にはじかれて、ミズキが我に返る。
すでに最後の骸骨剣士はミズキに向かって剣をふるい始めている。
渾身の一撃を放ち、身体が開き切ったミズキに対応する術はないように見えるがーーーー
右方向に振りぬいた右腕を、体幹の力で静かに引き戻す。
右に流れた重心を、右脚で地面を蹴り付けて跳ね返す。右膝の操作で体軸を左に回旋させる。
左半身に壁を作り、回転の勢いを後ろに逃がすことなく利用する。手元の操作で斧を回転させ、刃先を敵に正確に向ける。
パカァン!
相手よりも遅れて動き始めたはずのミズキだが、あっさりと後の先をとり、スケルトン・ウォリアーを粉砕した。
これで敵は全滅。
所要時間は2.5秒。ま、及第点だろう。
「な……何ですかこの力!
信じられません!まるで豆腐でも切ってるみたいでしたよ!
というか、このスピード!まるで、100メートル走に18秒かかる私が3秒未満で走り抜けるみたいなジェット感覚でしたよ!」
「そう、それが勇者権能だ」
なにしろ前人未到の能力向上6.8倍だからな。
ベンチプレス50kgの肉体でも340kg上がるし、100メートルのタイムも6.8分の1になるだろうさ。
っていうか100メートル18秒はひでーな。女でもあんまいないだろ。
「で、でも……攻撃力が桁違いでしたよ!?
今までの私なら、今のモンスターを6回や7回殴っても倒せてないと思います。
なのに、どうしてこんなにあっさり……!?」
「破壊力は速度の二乗に比例するからな。
6.8×6.8で……まあ暗算できないけど、36倍以上の衝撃が一瞬に集約されればああもなるだろ。
今日はその安い斧だけど、パワーも6.8倍になってるからもっと重くて威力のある武器に変えればさらに威力も上がる」
だからこそ、勇者権能の能力向上ってのは極めて重要なんだ。
1.7倍か、2倍か、それとも3倍か。
数字上は僅かな違いに見えても、全く世界が違う。
「さあ気になることもあるだろうが、とにかくどんどん進もう。時間が惜しい。
今日中にボス部屋を見つけるくらいじゃないとミズキの昇格に間に合わないからな」
——
そんなこんなで。
俺達の快進撃は進んだ。
全部で5階層構造の
夜までにボス部屋を見つけられればと思っていたが、実際の所午後くらいにはボス部屋に到達したからなー。
この時点で俺の勇者レベルは7→9に、冒険者レベルは1→11に大幅成長。
ミズキも勇者レベル2→8、冒険者レベルが8→14。
普通、一日でこんなに成長することはあり得ない。
レベル的に格上な相手であること、一度の戦闘が短いから集中的に大量に戦えたこと、なにより成長促進6.8倍の影響だろう。
「それにしても、信じられませんね。
本当に異常な位に身体がよく動きます。ただ早く動くだけじゃなくて、凄く巧く斧が扱えます」
「全種類武器術:中と斧術:中の重ね掛けの効果だろうな。
今までも”小”で効果はあったんだろうけど、小、中、大で本当に全然違う世界だからな。
ていうか、勇者権能と冒険者スキルの重ね掛けなんて前代未聞だよ。どんだけ効果が出てるんだか。
その自動操縦に身を任せてるだけで、どんどん技量は上がっていくんじゃないか?
世界一の斧の達人になる日も、まあそう遠くはないだろ」
「世界一の達人……インドアオタク女の私が……」
ミズキの斧術も今日だけで随分向上した。
一方で俺は普通のロングソードを使っているので、冒険者スキルの刀術の恩恵は受けられない。
刀なんて、かなり大きな都市に行かないと打っていないレア武器だし、何より高すぎてそう簡単には手に入らないからな。
勇者権能の全種類武器術:大だけでも相当に効果があるけどね。これに刀術:大が乗ったらどんなことになるのやら。
いつか絶対手に入れてやろう。
「さて、ボス戦は明日に回すつもりだったが、どうしようかな。
現時点でダメージはゼロだし疲労もない。
正直、先送りするメリットが何もないから今攻め込んじまってもいいと思う」
「だ、大丈夫なんですか!?
ボスなんて、すっごい強いんじゃないですか?
わ、私は痛いのは絶対に嫌ですよ!?」
うるせえなあ。
イチイチ萎えること言うんじゃないよこいつは。
「ま、大丈夫だろう。
ここのボスはワイトキングだ。戦力は大体把握してる。
ただ勝つだけなら多分問題ない。
でも、今回は別の狙いがあるんだよな。
ちょっと難易度上げて行こう」
ボス戦に際しての狙いをミズキに告げると。
「ム、ム、ムリですよぉ〜!
普通に戦うだけでも怖すぎるのに、なんでそんな欲かくんですかぁ〜!」
「ごちゃごちゃ抜かすな。やるったらやるんだよ。
ここを超えれば一気にレベルが上がって楽になるんだから。
レベルが上がればフィジカル強化もしやすくなるぞ。できるトレーニングの幅が広がるからな。
どんどん強くなれる」
「なりたくないですよ、強くなんて!
なんでうら若き女子高生がグラップラー刃牙の世界観で生きなきゃならないんですか!」
「いいのか?
勇者って、基本的に強くなる程美しくなるんだぞ?女性は特に」
「へ……?」
食い付いてきたな。
「そりゃそうだろ。
人間の身体ってのは環境に順応するもんだからな。
権能の力を借りてでも100メートルを3秒で走ってりゃ、3秒で走れる体にどんどん変わっていく。んで、野生動物なんかもそうだけど、高機能な肉体ってのは例外なく美しいもんだ。
鍛え抜かれた美脚。ティーカップくらいは乗りそうな美尻。
引き締まったくびれ。戦闘行動の最適化のために嫌でも姿勢もよくなるし。
それでいて、原理はわからないけど胸は例外なく大きくなるんだよな。
エネルギー消費に備えて栄養がそこに蓄積されるのかな?
これは勇者特有の現象だから説明付かないけど。
血流や栄養の循環が常人離れしてるから、肌質も髪質も最高潮。
すっぴんでも女優並みの美貌だからメイクの手間も不要。
老廃物も蓄積されないからむくみ、たるみ、しみやそばかすニキビなんかも一生無縁。
腸も活発だから便秘も知らない。
たしか生理痛も激減するとか聞いたことがあるな」
「フ、フオオオオオっ!」
こうかはばつぐんだ。
この分ならモチベーションは大丈夫そうだ。
実際、ランキング上位の勇者達は凄まじい身体能力を送っているし、かつ例外なく美しいからな。
例えばS級勇者のミランダ。
能力向上3倍の勇者権能を持つ彼女は、権能や勇者レベルの恩恵を引きはがした純粋な身体能力でも、100メートルを5-6秒で駆け抜けるスペックがあるだろう。
彼女にとっての日常生活が、常人にとっては一生実現できないような猛トレーニングだから。
それでいて芸術品みたいな美貌だからな。
どんな女優も歌姫も、勇者のスター性には敵わない。
民衆の憧れだ。上位の勇者はね。
それだけに、色んな儲けも桁違いだろう。
「でもなんか……しんどそうですね。
筋肉痛とかとんでもないことになりそうです。
私は痛いのとか苦しいのは嫌いなんです。それでも強くなれますか?」
「ああ、なれるさ。
回復力も6.8倍だから問題ない。勇者レベルが上がれば脳内物質で痛覚も遮断できるし。
それもこれも、勇者でいてこそだ。
勇者権能が剥奪されたら何もかも絵に描いた餅だ。
勝ち組になりたきゃ、根性見せるしかないってこった。
よし、それじゃあボス戦行ってみよう!」
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