第4話 俺達の伝説の幕開けだ!

「大体おかしいんだよどいつもこいつも!

 なぁーにが”俺達にはもっと輝ける環境がある”、だ!

 ええ?おかしいだろ、おい。俺がいなきゃどいつも使い物にならなかったんだよ!


 何のためにわざわざ手をかけて育ててやったと思ってんだよ!

 後に戦力になると見込んだからこそこっちは時間を手間をかけて強化してんだよ!

 てめえ1人で一人前になったつもりか、この裏切り者がよおっ!」



「もうほんと意味わかんないんですよ!何が勇者ランキングですか!

 こちとらか弱いただの女子高生ですよ!


 トラックに轢かれたと思ったらわけのわからない世界に飛ばされて!

 チート無双ができると期待したのに、使い物にならない能力しかなくて!


 おまけになんですか! 私の他にも99人も勇者がいるなんて!


 こういうのは自分だけ得するから意味があるんですよ! 競合他社がいたんじゃ旨味なんて何もありませんよ! レッドオーシャンもいいところですよ!

 しかも勇者同士で競い合って、負けた人は地位剥奪とか意味わからないし!


 協力し合えよ! 勇者でしょう! 正義の味方でしょう!」



 めちゃめちゃ意気投合した。

 酒が入りすぎて、お互い相手の話なんざちっとも聞いてなかったが。



「そうだよそうだよ。どいつもこいつもてめえの都合だけ考えやがってよ。


 世の中全体が自分と同じ事したらどうなるか、ちったあ想像してみろってんだ。

 だあーれも新人育成なんかしなくなるぞ!?

 いつか出ていく人材なんざ、誰が手間暇かけて育てるもんかよ!


 それであれだろ?即戦力に好待遇を示す上級の勇者様が、ホワイトな労働環境だとか思ってんだろ?

 ケッ!そりゃあ育成の手間を負担しないんなら羽振りもよくなるだろうよ!

 逆に言やあ、そういうコストを他の勇者に押し付けて成果のタダ乗りしてるだけだろうが!

 美味しいトコだけ持ってきやがってよ!


 だいたいそういう奴らは使えないと思った相手はすぅーぐに追い出すんだっつうの!

 っていうか、そもそもてめえらそういう連中に追放されて落ちぶれたんだろうが!


 どうせそんなことは都合よく忘れて、自分は無能な人間を切り捨てる側の優秀な人間だと思いこんでるんだろうが、そんな幻想いつまでも続くもんかよ。

 ミランダにせよ他の奴らにせよ、トラブルかなんかがあって自前のパーティが枯渇したから一時的に補充してるだけなんだよ!

 当座をしのいだら、人を平気で裏切るような連中、真っ先に切られるに決まってるんだよ!」



「大体今更異世界転生冒険活劇なんて流行りゃしないんですよ!


 転生するなら悪役令嬢だって何回言ったと思ってるんですか!  言ってないけど!

 男子向けの作品なんて全然カバーしてないんですよ! 冒険もロマンも私はお呼びじゃないんです!


 なんなんですかこの世界は! 食べ物も美味しくないし、風呂もトイレも旧式だし!

 公爵令嬢に生まれ変わって魔法学院で第三王子と婚約破棄する練習なら何億回もシュミレート済みなんですよ! 脳内でね!


 そっちの設定でやり直させてください! チェンジ! チェンジ! キャラチェンを希望します!」



 へべれけすぎて彼女の言ってることは全くわからないが。


 とは言え、わかったことはある。

 彼女は聖女ミズキ。勇者ランキング100位の女勇者だ。



 俺と同じく勇者権能を授かって勇者活動を開始したは良いが、権能の貧弱さから冒険者たちに敬遠され、ロクに成果を残せずに今に至るという身につまされる状況のようだ。



「私の事なんて誰も必要としてないんですよ……。

 降格点も2つ溜まっちゃったし。あと3日で3つ目だし。


 勇者じゃなかったらなおさら生きてけませんよこんな世界。

 もうグッバイしちゃおうかな、こんな世界。ワンチャン次の世界に転生できるかもしれないし。


 ていうか、もう日本に帰りたいです。日本の良さがわかりました。日本がいいです。

 異世界チーレム無双生活なんかより、冷暖房完備の環境とか刀剣乱舞インストール済みのスマホとか濃厚魚介豚骨醤油つけ麺のほうがよっぽど尊い存在なんですよ!」


「おうおう、そうだそうだ!

 どんどん飲め!」



 細かい事はよくわからんが、降格点2つはやべーな。

 崖っぷちじゃん。



 降格点を消すには、何はともあれ勇者ランキング90位以内に入ることが必要だ。

 90位、すなわちD級勇者以上に入れば降格点が1つ消えるし、その状態を半年間継続すればもう一つの降格点も消える。


 そうなれば綺麗な身。

 またしばらく与太郎同然の生活をしても勇者資格剥奪の危険は無い。



 E級勇者やD級下位の勇者の間ではそのあたりの制度を利用して順位の売買や融通をしているとも聞く。強めに当たって後は流れでお願いしますって感じ。

 もちろん勇者管理委員会(勇管)はそうした不正を許すまいと、常に勇者の動向に目を光らせている。


 ま、この子はそういう寝技が得意なタイプではなさそうだけどね。

 むしろ生きるの下手そう。俺が言えたことじゃないか。



 で、資格喪失期限まであと3日か。

 ぶっちゃけ、100位を90位にするぐらいなら、実のところ不可能とまでは言えない感じだな。

 そこそこのダンジョン一つ制覇すればそれだけで昇格だろう。


 勿論それは、十分な戦力を確保できていればの話だ。

 行く先々で冒険者につまはじきに遭い、見るからにソロ冒険にも向いてなさそうなこの子ではなかなかキツいもんがあるな。



 死に物狂いで冒険者ギルドをめぐり、報酬も全部渡して手持ちから金を上乗せして土下座する勢いで冒険者を確保して、最速でコスパのいいダンジョンに乗り出すぐらいでまあなんとか。

 となると、こんなところで酒飲んでる場合じゃあないんだろうが、見たとこもう諦めて捨て鉢になってるからな。


 社会不適合者の成れの果てか。俺も他人事じゃない。

 助けてやりたい気持ちもあるが、勇者と勇者はパーティを組めない。



 正確には勇者同士がパーティを組むと、互いの権能が打ち消し合うのか、どちらの権能も効果を発揮しなくなってしまう。

 ”勇者の呪い”なんて言われているが、これは強力な戦力ダウンだ。



 これがなければ、1位から100位までの勇者全員でパーティ組んでとっくに魔王なんか倒してるんだろうけどね。



 しかし実際この子、どんな権能持ってんだろうな。

 俺は”才能鑑定”を発動する。



 基本的に勇者に対して勇者権能は発動しない。”勇者の呪い”の影響で。

 だが勇者権能自体はデフォルトで開示されて誰でも見られる仕組みになっている。


 そうでないと冒険者も信頼して勇者について行けないからな。能力向上3倍の権能を持っている、といいながら実は1.5倍しか持ってなくて騙されるみたいな事故はこれで防がれる。



 といって、俺の眼をもってしても勇者の潜在的な才能を発見したり開花させたりはできないけどね。



「どれどれ……ん!?」



 ミズキ 18歳

 勇者レベル:3

【勇者権能】

 ・共通権能

 全種類武器術:小

 全種類魔術:小

 能力向上:1倍

 成長促進:1倍

 ・固有権能

 勇者の呪い解除 現在の対象:自分 (1/1)

 (解除人数増加 : 潜)

 冒険者レベル:8

【冒険者スキル】

 斧術:小

 水属性魔術:小

(美食の天啓:潜)



 なんだこりゃ。

 突っ込みどころが多過ぎる。

 わけがわからん。見たことないぞこんなの。



 ——



 勇者には勇者レベル、冒険者には冒険者レベルってもんが設定されている。これは魔物を倒して経験値を得て上がるもので、レベルアップすれば身体能力が向上する。


 仮に元冒険者が勇者に任命されれば冒険者レベルは消え、勇者レベルのみが残る。

 これも”勇者の呪い”の影響と言われている。



 なのに、ミズキのステータスには両方のレベルが残っている。

 これは一体……?



 いや、待て。

 それより気になるのは。


 こいつの固有勇者権能。勇者の呪いの解除……だと?

 こんな権能は聞いたことがない。おそらくは勇者史上、前例のない権能だろう。



 おかしな点はまだある。

 通常ならば俺の“才能鑑定“は、他の勇者には働かない。

 なのにこいつに対しては、潜在的な才能までこの眼には視えている。



 これらは、”勇者の呪いの解除”とか言うこいつの固有権能によるものなのだろうか……?

 美食の天啓とかいうのに至っては意味不明過ぎる。



 好奇心が湧いてきた。

 色々と試してみたいことが出てきたぞ。


 もしも俺の想像通りなら、面白いことになるかもしれない。



「おい、ミズキ。

 ちょっとお前の権能について話がある」


「なんですかルカ。

 私は今、生まれ変わったら最初にどこのラーメン屋で食べるのか考えるのに忙しいのですが」


「いいから黙って聞け。

 というか目を覚ませ。死んだ人間が生まれ変わるなんてあるわけないだろうが」



 まずは彼女の固有権能について尋ねてみた。



「ええ。

 なんだかよくわからない能力ですが、とりあえず発動させていますよ。

 これを使っていると、多少体がよく動いて、斧や水魔術が上手に使えるので。

 全く地味すぎますよ! 転生までしてもらったチートがこんなんじゃ、無双なんて夢のまた夢です!」


「そうか……。

 ちょっと待て。少し俺の権能を試してみるぞ」



 そう言って俺は、自分の固有権能である“才能開花“をミズキに向かって発動した。


 あわよくば”解除人数増加”とやらを開花させたかったが……。



「……! ダメか!

 ミズキの側というより、俺の側の”勇者の呪い”で他の勇者に権能発動できないみたいだ」


「はあ……。あの、さっきから一体何を」



 何が起きてるのかイマイチわかっていない様子だ。

 だが俺は引き下がらない。もしかしたら凄いチャンスを目の前にしているかもしれないんだ。



「ミズキ!

 今度はその”勇者の呪い”の権能を一度解除して、俺に発動してみてくれないか!」


「え?私の権能をアナタにですか?

 まあ、すぐに自分に戻せるからいいですけど」



 そういって彼女が権能を操作する。

 俺は引き続き”才能鑑定”を発動する。



 ミズキ 18歳

 勇者レベル:3

【勇者権能】

 ・共通権能

 全種類武器術:小

 全種類魔術:小

 能力向上:1倍

 成長促進:1倍

 ・固有権能

 勇者の呪い解除 現在の対象:ルカ (1/1)

 (解除人数増加 : 潜)



 よし、彼女の冒険者レベルの表示が消えているな。

 ここまではオーケーだ。

 続いて、自分自身に対して“才能鑑定“を発動する。



 ルカ 19歳

 勇者レベル:7

【勇者権能】

 ・共通権能

 全種類武器術:中

 全種類魔術:小

 能力向上:1.7倍

 成長促進:1.7倍

 ・固有権能

 才能鑑定

 才能開花

 (才能発展:潜)

 冒険者レベル:1

【冒険者スキル】

 刀術:中

 火属性魔術:小

 (闘気法:潜)




 !!



 俺自身に対して、“才能鑑定“や“才能開花“の権能が発動可能になっている!

 しかも、俺も冒険者レベルが同時展開できているじゃないか!


 “才能発展”……これが俺の潜在スキルか。勇者権能にも潜在スキル……いや潜在権能があったんだな。ミズキの”解除人数増加”を見てピーンと来ていたが。

 そして冒険者スキルの方では闘気法ってのがあるのか。



「ルカ、すみません。

 さっきから何をやっているのか教えてくれませんか?」


「あ、すまん。

 今ちょっとややこしいことをしてるんだ。

 後でちゃんと説明するから、とりあえず付き合ってくれないか?


 今はわからなくても実践の中で感覚でわかると思うし、わかるまで何度でも説明するからさ。頼むよ」



 ミズキを置いてけぼりで一人で盛り上がってしまっているが、まずはこのチャレンジに集中したい。

 すぐにでも自分の才能を開花させたいが、その前にやることがある。



「”才能開花”発動! ミズキの勇者権能よ、開花しろ!」


「え? え?」



 混乱するミズキ。

 構うことなく彼女のステータスを覗き見る。



 ミズキ 18歳

 勇者レベル:3

【勇者権能】

 ・共通権能

 全種類武器術:小

 全種類魔術:小

 能力向上:1倍

 成長促進:1倍

 ・固有権能

 勇者の呪い解除 現在の対象:ルカ (1/2)

 解除人数増加  (1人)



 ヨシ!

 解除人数増加が発現してるぞ!

 見た感じ、もう1人”勇者の呪い解除”をできそうだ!



「ミズキ。ちょっと自分の権能を確認してみてくれ」


「え、あ、はい。

 え?何これ!?なんか増えてますよ!?」


「ああ、”勇者の呪い解除”の人数が増えているだろう。

 今度は、ミズキ自身の”勇者の呪い”を解除してくれ」



 言葉に従い解除したミズキ。

 すると、やはりというか、彼女の冒険者レベルやスキルがまた表示される。


 そこで俺は、ミズキの潜在冒険者スキル、俺の潜在勇者権能と潜在冒険者スキルをさらに開花させる。



 ミズキ 18歳

 勇者レベル:3

【勇者権能】

 ・共通権能

 全種類武器術:小

 全種類魔術:小

 能力向上:1倍

 成長促進:1倍

 ・固有権能

 勇者の呪い解除 現在の対象:自分、ルカ (2/2)

 解除人数増加

 冒険者レベル:8

【冒険者スキル】

 斧術:小

 水属性魔術:小

 美食の天啓



 ルカ 19歳

 勇者レベル:7

【勇者権能】

 ・共通権能

 全種類武器術:中

 全種類魔術:小

 能力向上:1.7倍

 成長促進:1.7倍

 ・固有権能

 才能鑑定

 才能開花

 才能発展

 冒険者レベル:1

【冒険者スキル】

 刀術:中

 火属性魔術:小

 闘気法



 ここまでは当初の計算通り。

 だが、予想外の事態が生じている。

 予想以上というべきか。



 さらに続いて、俺の潜在勇者権能を試してやる。

 “才能発展”を発動してみる。まずは、俺の全種類武器術でいいか。



【Before】

 全種類武器術:中


【After】

 全種類武器術:大



「キタコレ!」


「ひっ!なんですか!」



 ミズキがドン引きしているが構っているヒマはない。

 この潜在権能……とんでもないぞ!

 直感通り、全ての権能やスキルを1段階発展させられるってシロモノだ!


 しかもノーコストで、だぜ?

 とんだぶっ壊れ性能だ!


 言ってみれば、”才能鑑定”が0のスキルを発見するスキルで。

 “才能開花”が0を1にするスキルとするなら。

 “才能発展”は……1を2にするスキルってことだ。



 これは、凄い。桁が違う。

 持ってるスキルや権能を全部発展させられるってことだぜ!?



 調子に乗った俺は、自分自身の権能とスキル、さらにはおまけでミズキの権能とスキルの全てを発展させた。



 ルカ 19歳

 勇者レベル:7

【勇者権能】

 ・共通権能

 全種類武器術:中→大

 全種類魔術:小→中

 能力向上:1.7倍→3.4倍

 成長促進:1.7倍→3.4倍

 ・固有権能

 才能鑑定(変更なし)

 才能開花(変更なし)

 才能発展(変更なし)

 冒険者レベル:1

【冒険者スキル】

 刀術:中→大

 火属性魔術:小→中

 闘気法→武神闘法



 ミズキ 18歳

 勇者レベル:3

【勇者権能】

 ・共通権能

 全種類武器術:小→中

 全種類魔術:小→中

 能力向上:1倍→2倍

 成長促進:1倍→2倍

 ・固有権能

 勇者の呪い解除 現在の対象:自分、ルカ (2/2) (変更なし)

 解除人数増加  (変更なし)

 冒険者レベル:8

【冒険者スキル】

 斧術:小→中

 水属性魔術:小→中

 美食の天啓→美食神



 流石に固有権能は変更なし、か。

 授かった時点で完成形ということかな。



「お、おおおっ?

 なんだか体の感覚が変ですよ!?」



 ミズキが挙動不審になっている。


 無理もないだろう。

 彼女にしてみれば”能力向上”の効果を実感するのは初めてだろうから。


 しかし、俺達の”能力向上”は他とはケタが違うのだ。



「共通権能の、能力向上や成長促進の最高記録っていくらだっけな?


 たしか120年前のS級勇者の能力向上5倍ってのが史上最高だったはずだ。

 その人でさえ、成長促進が1.2倍に留まるってハンデをしょってたしな。

 勇者権能同ポテンシャルの法則の影響だわな」



 俺たち2人は、”勇者の呪い”が解除されている。

 すなわち、2人の勇者が同時にパーティを組むことで、互いの権能が同時発動し、累乗で能力向上、成長促進している状態だ。


 俺の権能が両方とも3.4倍。ミズキが2倍。

 3.4×2でーーーー



6.8。これは間違いなく史上最高数値だ。

 しかも武器術、魔術の権能も申し分なし。

 さらには勇者レベルと冒険者レベル、勇者権能と冒険者スキルとの併用で戦闘力の爆上げも期待できる。

 これはもう、歴代最強の勇者コンビって言って間違いないだろ」



 こいつの”美食神”とやらは心底意味不明だが、まあそれもおいおい調べていこう。


 ニヤリ。思わず笑みがこぼれる。



「ミズキ。取ったぞ、てっぺん。

 俺達の栄光の道のりは確定したようなもんだ。


 それじゃあ、明日の朝イチで町外れの迷宮ダンジョン前に集合しよう。

 俺達の伝説の幕開けだ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る