3
七人の罪人は、四人と三人の二組に分けられた。
ボスと、大男と、僕の組。
それ以外の四名の組。
それぞれ罪人を運搬するための、牢のついた特別製の馬車へと押し込まれた。
馬車の扉が閉められ、馬がいななく。
すると振動が体を突き上げ、馬車は動きはじめた。
「おい、坊主。おまえの世話人、女で良かったじゃねえか」
押し込められた牢の中には、役人はいない。
予想していた通り、さっそくボスは僕に構ってきた。
なにか危害を加えられてもかなわない。
とりあえず無難に相手をすることにした。
「べつに、女でいいことなんて」
「そうかい? 俺はうらやましいねえ。若いねーちゃんによ、俺様も縄をひかれてえよ。クーッ! 俺様も是非に、飼われてみたいもんだ」
「そこまで言うなら代わってくださいよ。僕は誰でも」
「やれやれ、まだまだ女を知らねえガキか。喜びってやつを知らんのだな、少年」
「なんでもディアドラ、彼女が言うには、神の導きで安らかな死をエスコートしてくれるらしいですよ。バカバカしいッ」
「いいじゃねえか。女神の腕に抱かれて、天国行きってか? 禁欲で欲求不満のシスターなら、なおのこと面白いぜ」
「……会話が成立していないと思いますけど」
「そりゃあれだろ、おまえがネンネだからさ。かわいそうに、女も抱かずにあの世行きかよ。泣ける話だぜ。やっぱりあれだろ、ここはシスター殿に心残りの無いようお願いしたらどうよ」
「なあ兄貴、俺もいまから神を信じても間に合うか?」
「おうよ、祈っとけ、祈っとけ。なんせ祈るだけならタダだからな。わざわざさらってくる必要もねぇや」
笑いながら話すふたり。
具体的にわからずとも、流石にそれが性的な話であることは理解できた。
「顔が赤いようだが、どうした? 想像しちまったかい。
いやいや、そう怒るなよ。
冗談はさておきだ。
……おまえの一族、なにやらかしたんだ? 本当のところ、俺に教えちゃくれねぇか」
「いや、なにも……、僕は無実ですから」
「おまえの親父は政治犯なんだろ? そうでなきゃガキが処刑されるはずがねぇ。生きてんのか? それとも、おまえが人質だったのか? まさか辺境の動乱がらみか?
そこんとこ、ひとつ教えちゃくれねえか」
「そんなこと、あなたに関係なんて」
「…だよなぁ、まあ、関係はない。けどな、気になることは聞いときたい性分でよ。そういう情報の一つ一つが、思わぬ金になるかもしれねぇからな」
「これから処刑なのに、ですか?」
驚いて聞き直すと、ボスは咳払いをする。
「なんでも知りてぇのが俺の性分でな。どうせ死ぬなら心残りが無いほうがいいだろうよ、お互いに」
良い加減にしつこく感じ、「僕のせいじゃないんだ。どうしてかなんて知りませんよ」と僕はそっぽを向いた。
「そうかい……
それにしたって、ひどい世の中よな。そう思わんか?」
——なんで王族の僕が悪人に混ぜられて、偉そうにされなきゃいけないんだ。
考える邪魔をしないでくれよ!——
死刑になるほどの罪人に関わるなど、気持ちのよいことのはずがない。
そして僕には、考える時間が必要だった。
文字通り必死の状況なのだ。
ド・フェランに復讐し、姉さんの仇を討たねばならない。
処刑されている場合ではないのだ。
どうにか逃げる方法がないか、差し迫る時間の中で難問に向き合わねばならない。
いっそ放っておいて欲しかった。
しかし機嫌を損ねて暴れられても、かなわない。
警備が厳しくなればなるほど、もともと少ない逃げられる可能性が低くなってしまう。
思い直してふたたびボスを見て、適当にやり過ごそうとうなずきを返してやった。
「俺様と違って、『僕のせいじゃない』ことで処刑されんだろ。これがひどくなくて、いったい何がひどいってんだ。坊主も突然運命が変わっちまったんだろうなぁ」
たしかにこれまで、こんな想像は一度だってしたこともなかった。
いったいどこの誰が、無実で処刑される自分なんてものを想像するだろうか?
「そういう胸の中に抱えたもんをさ、しまい込んどくのは辛くねえか?」
……男の言うとおりだ。
ひどい世の中だし、運命も突然に変わった。
話せるものなら、話してしまいたいこともある。
「俺様だってよ、『こんなはずじゃなかった』とも思うわけよ」
「兄貴はこれでも、いいとこの出なんだぜ」
「チッ、よさねぇか。それに『これでも』は余計だ」
反対に座っていた男が会話に割って入った。
腰縄を三人がかりで持たれていた大男だ。
この男だけは『ボス』と呼ばず、『兄貴』と呼んでいた。
本当の兄弟のようには見えないから、いわゆる兄弟分というやつだろうか。
——処刑されるような悪事をさんざ働いて、『いいとこの出』だなんて笑い話にもならない。自業自得の悪党と一緒にされるなんてッ——
「まあ、俺様は好きなこともやったから、坊主よりはマシよ。あの女兵士よりいい女も抱いたしな」
「それはべつにッ」
「まあまあ。だから、坊主が哀れに思えてならねえんだよ」
「兄貴は面倒見だけはいいんだ。なにせ、三十人以上もいる仲間をまとめてんだからな」
「面倒見『だけ』とはどういう意味だ。おまえはいつも一言多いんだよ」
「すまねぇ、兄貴」と大男は首をすくめた。
——三〇人以上…… 僕以外にここへ引き出されたのは、たしか六人か?——
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