第12話

 下駄箱のシールが半分以上はがれている。

 あと何日かしたらこの下駄箱も掃除をして次の五年生に明け渡す日がやってくる。

 だから、シールは剥がしやすくて丁度いい。


 そう言えば、明日は、慶太兄ちゃんの通う歌津中学校の卒業式だ。

 来年は、慶太兄ちゃんも卒業する。

 って、待て待て。 

 私も来年は、小学校卒業式だった。

 そっか。私たち兄弟二人とも卒業式だからお母さんも大変だ。

 二つの卒業式。二つの入学式。


 「佳惟!」

 後ろから畑山先生に声をかけられた。

 「今日、卒業式の練習だから頼むぞ?

 会場は、多目的教室な。

 金曜日だからさ、ぶち抜きで行くことになったから」

 畑山先生がいかにも面倒くさそうな顔で、頭に手をやりながら顔をしかめてみせた。

 「ぶち抜きですか・・・苦手」

 思わず本音が出る。

 小学校の卒業式は十九日。

 五年生は六年生の「お見送り」と言うことで練習の時から、六年生と同じくらい、式の始まりから終わりまで一緒に参加する。

 「ぶち抜き」というのは、三時間目と四時間目とか、五時間目と六時間目の二時間連続で練習を行うこと。

 「午後のぶち抜きらしいから、よ~く眠れていいんじゃないか?」

 と畑山先生らしい軽口。

 「先生、眠れるようにエアコンだけは高め設定でお願いしますね。眠ったとたんに凍死なんて絶対に嫌です!」

 ついつい眉間にしわがよってしまう。

 畑山先生は、笑いながら、

 「終わったら、六年生チームと体育館でバスケットボールの試合するって優先生は、張り切っていたぞ?」

 と通り過ぎた。

 「六年生は、体が重いからまた五年生の勝ちに決まっています」

 と言ったら、すれ違う六年生にキッとにらまれてしまった。

 あ~。どうも、すみません。

 首を引っ込めてダッシュして教室に走った。


 教室に入れば、いつもの一日が始まった。

 始まってしまえば、もうジェットコースター状態。

 ただ流れに逆らわずに流されるだけ。 一日は、びゅわーんって感じに過ぎていく。

 学校の中は、こんな風に瞬く間に時間が過ぎているというのに、窓の向こうは穏やかに晴れ渡りきらきら輝く水平線がすごく綺麗。こういう景色を独り占めできるところ、この町のいいところだと思う。

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