第10話
私は、わかめの上のところの「めかぶ」が大好き。
あったかいご飯にかけてずるずるって音を立てて食べる事が一番好き。
今は、「めかぶ」の加工食品が年がら年中スーパーに並んでいるから、都会の方では、「めかぶ」の旬なんてわからないだろう。
「わかめ」も「めかぶ」も春先の今が一番の旬なのだ。
しかも新年早春の一月から三月あたりまでが一番の旬、まっただ中。
刈り採ってきたばかりの生のわかめは茶色なのだけれど、熱湯にくぐらせると一瞬で真緑色になる。
魔法をかけたように一瞬で変わる。
真緑色ってわかるだろうか。ただの緑色ではない。水彩絵の具で表すことはできない。新緑の若葉が朝露に濡れて輝いている時に見せる緑色。
柔らかな樹吹の緑色だ。
まさに海の新緑。
小さい頃は、それを
「がぶっ」
っと、まるかじりさせてもらうことがすごくうれしかった。
ほっぺに容赦なく「めかぶ」のぬるぬるしたぬめりがくっつく。
「めかぶ」の旬の味わいは、これでなくちゃ!
海のにおいは、そういう思い出全部が混じり合っているから、だから深呼吸すると、空気に味があるように感じるのかもしれない。
すっかり海辺で働く人たちを見て気を取られていたら
「来るかもな」
と、いきなり誰かが応えて驚いた。
「来ないもん!」
美咲ちゃんが、怒ったように言い返した。
「津波」が「クルコナイ問題」
「そんなこと、どっちだっていいよ。いつまでも言ってることの方がうざいんですけど」
「ほら、列、曲がっているよ?もう少し急ぎ足にしようよ」
五年生の女子が話しの骨を折る。来るのか来ないのかわからない問題よりも見えてきた学校に早く到着することの方が目下一番の問題だと思う。
校門の前には、二人の先生たちが立ってこっちを見ていた。
「一番遠い泊地区到着。四十五分か?」
五年生の担任の畑山先生が時計をみながら言った。
「今日は、四十五分。昨日よりも少し早いくらいか?」
くだらないおしゃべりが多かった割には、昨日より早く着いたらしい。
校門をくぐったとたん、「くだらない問題」のおしゃべり合戦は、ぱたっと終わった。
それどころか、それまで仲良く話をしていたことも何もかもなかったみたいにみんなそれぞれの昇降口に向かって走って行ってしまった。
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