第9話
田舎のこんな小さな町でも、「防犯」しなければいけなくなったのだ。
田舎なのだから、都会に合わせたルールにしなくても良いのでは、ないか?
第一、集団登下校なんて、いちいち面倒くさいもの考えた人誰よ?どこの大人?
なんて、心の中で毒づいていたら、私のすぐ前を歩いていた美咲ちゃんが、私の方を振り向いて、
「あのね、「津波」ってやっぱりいつか来るのかな?」
と、突然、なんの脈絡もなく話し出した。
「いつかくるって言うけど、さっぱり来ないから、ほんとは、そんなの迷信なんじゃないの?」
と、四年生の博巳君がぼそっと言った。
一昨日、震度5の大きな地震があったばかりだから、美咲ちゃんは、気になっていたのかもしれない。
「いつかは、来るかもよ?
でも、ここじゃないどこかだって、お母さんが言っていた」
同級生のとわちゃんが美咲ちゃんの方を見ながら安心させるみたいに言った。
美咲ちゃんも「そっか」と安心したみたい。
何の根拠もない無責任な話だとその時は、思わずに、私も、とわちゃんの話に、
「そうだよね」って同意していた。
「津波」なんて、私が生きているうちにやってくるものではないと思っていたし、まして「大津波」なんて外国の映画の中の話だと思っていた。
美咲ちゃんが、いきなりなぜ朝から、しかも突然、「津波」なんて言葉を言い出したのかびっくりしていた。
曲がり角を曲がったら、
ほら、見えてきた。
あれが、私たちの海。
歌津の海。
今日は、天気もいいし風もないからきらきらお日様の光が海に跳ね返ってきれい。
ぴかぴか輝いているみたい。
かもめも低く飛んでいる。
海の向こう側を小さな船がいくつも通っているのが見える。
海のにおいも大好き。
どんなにおいかって?
深呼吸するとわかる。
普通の空気とは絶対に違うから。
ちょっと空気に味がある。
しょっぱい味ともちょっと違うかな。
美味しい味かな。
ずっと、深呼吸していたい感じ。
今は、丁度、わかめの出荷の時期だから、船引場のあたりでは、いくつもの集まりができていて、沖で養殖しているわかめを刈り、刈り採ってきたわかめを中心に人が集まっている。
生わかめで出荷する人たちもいるし、その場で塩蔵わかめを作るためにわかめを煮上げている人たちもいる。
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