第8話

 美咲ちゃんは、お母さんの方に走っていった。

 玄関先にいたお母さんが、

「あら、そうそう」

 と慌てて家の中に入り美咲ちゃんのジャンパーとそれから、手提げ袋を持って出てきた。

「美咲、今日は、ロッカーの中の荷物持ってこなきゃいけない日でしょ?

 手提げ袋を持たせてくださいってお便りに書いてあったじゃない?」

 と出てきた。

 ほら、やっぱり。

 クリーンヒット。

「あ、ほんと。あは、危うくまた先生に怒られるとこだった」

 美咲ちゃんがてへへっと笑った。

(笑い事じゃないんだけどね。怒られるのは、美咲ちゃんだけじゃないから)

 って心の中でちょっぴりぼやく。

 ま、これでひとつクレームの種の回収ができてよかったかな。


「いってきまーす」 

 美咲ちゃんの声の後に他の子どもたちの声がかさなる。

 「いってきまーす」

 「いってらっしゃい」

 美咲ちゃんのお母さんが見送ってくれた。

 美咲ちゃんは、地区の中で一番後の合流地点、「沢口商店」の娘。

 うちの地区には、コンビニがない。

 コンビニはないけど、沢口商店がある。

 沢口商店には、牛乳や豆腐、お肉、お菓子などの他に雑貨、たばことお酒が置いてある。

 細々したちょっとしたものなら沢口商店で手に入れることができる。

 車で十分も移動すればスーパーがあるからみんなスーパーで買い物をすることが多いのだけれど、沢口商店は、すぐ近所の顔なじみのお店で、量販店や大きなスーパーにはない温かさがある。

 美咲ちゃんのお母さんやおばあちゃんが優しいからそう感じるのかもしれない。


 列の先頭集団は、六年生の男子。

 列の最後尾は、五年生の女子というのがうちの地区のルール。

 少し前まで歩道もなかった。

 歩道がない道なんてあり得ないと都会の人なら思うのだろうか。

 そもそも車の通りも少ないし信号機なんか町の中に数えるくらいしかない。

 そんなだからね、歩道なんかなくたって、歩くことに問題は、ない。

 それがここ数年、高齢者ドライバーの事故が多発したり、都会の方で不審者騒ぎが多くなってテレビでも騒ぐようになった。

 だから、

「子どもの一人歩きは「危険」です」

 と言われるようになってきた。

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