第7話


「情けは人のためならず」とは、

「誰かのために何かすると言うことは、巡り巡って自分に返ってくるから、自分のためにやっているのだと思って、誰かのためにできることを一生懸命にすることは、良いことなのです。」


 担任の畑山和弘先生に言われたとき、まっ先にお母さんの顔が浮かんだ。

 そして、「腑に落ちる」とは、こういうことなのだと、思った。


 誰かのために一生懸命仕事をする。

 巡り巡って私のためになる。

「一生懸命」「やる気」「全力」

 全部、お母さんのための言葉なのだと私は、思っていた。


 集団登校。三年生の美咲ちゃんの家に到着。

「美咲ちゃん、忘れ物ない?」

「う~ん。ないと思う」

 三年生の美咲ちゃんは、忘れ物の常習犯だ。

 いつも学校に着いてから

「あれ忘れた!」

 って始まるから、その度、

「上級生が声がけしてあげてね」

 って、ちょっと理不尽とも思える先生たちからのクレームが入る。

 私のせいかよ!って、言いたい時もある。

 我慢我慢。これがね、役員の運命なのよ。

 だからみんな役員の仕事をすごく嫌がる。

 なんだかんだ言っても結局責任をどこかに押しつけてしまいたいから、みんな役員のせいにしたがるのだ。


「この仕事ができるのは、佳惟しかいないんだよ。佳惟のように仕事をこなせる人なんかそんなにいないんだから」


 なんて、調子のいいことを言っていざとなるとみんな、文句の矛先を、こっちに回す。

 だからね、しつこいくらいに、聞く。


「美咲ちゃん、今日は、上着持った方がいいと思うよ。

 今は、暖かいけど、午後から寒くなるって天気予報で言っていたよ。

 昨日も午前中は、晴れていたけど、午後から雪が降ったでしょ?

 インフルエンザが流行っているみたいだから、上着持っておいでよ」

 と私は、お姉さんぶって声をかけた。

 美咲ちゃんは、しぶしぶ、

「うん、わかった。待っててね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る