第5話
二年生の三浦汐音ちゃん。
しいちゃんのお兄ちゃんは、慶太兄ちゃんの一年後輩で同じ剣道部に入っている。
でもしいちゃんは、剣道会には入っていない。なぜなら、「棒で叩かれるのが嫌だから」。
「打ち返せばいいよ?」
と、軽く言い返してみたが、しいちゃんは、
「怖いから嫌なんだもん」
と言った。
うちのお母さん曰く、
「ま、そういう人もいていいのよ。
みんながみんな、佳惟のように棒持って叩くことが大好きな人ばかりだったら、この世は、またいっきに戦国時代に逆戻りしてしまうでしょ?」
と、私のことを戦国武将の生き残りみたいにたとえて言ってくれる。
この世がいっきに戦国時代にならないためにも、汐音ちゃんのような人がたくさんいればいいと私も思う。
私の通う南三陸町立名足小学校までは、自宅から距離にして4.5㎞ほどある。
徒歩で50分。
田舎の道は、家もまばらで危険だから、学校から「集団登下校」が義務づけられている。
「集団登下校」というのは、同じ地区の子どもたちが全員一緒に登下校すること。
少し前まで自転車通学が許されていた時もあったようだけど、それも禁止になった。
「スクールバスは、補助金の申請が難しいことを理由に、町の教育委員会がなかなかOKしてくれないのよ」
とお母さんたちがブツブツ言っているのを聞いたことがある。
何度かお母さんたちも学校に掛け合ってくれたことがあったらしい。
毎日保護者送迎なんて、仕事を持つ親にとっては死活問題だ。
この沿岸路線は、過疎化を理由にバスも午前に二本、午後二本しか通っていない。
都会に住む人たちには信じられない環境だろうが、そこに住んでいる私たちは、いろいろなものと折り合いをつけながら暮らしている。
送迎に関しても、雨の日は、保護者送迎と決められているけど、
「晴れている日は、体力作りのためにも徒歩で集団登下校しましょう!」
というのが、学校と保護者の間の利害一致による陰謀。
私たちは、雨が降ればいいのに、風が吹けばいいのにと思いながら歩いている善良な子どもたちなのである。
一番山の頂上付近に家がある私が、いつも集団登校の先頭であり、学校からの帰り道は、最後でもある。
朝は、私の家から坂を下って、一人、また一人と、子どもの数が増えていき、沢口商店の前で全員がそろう。
その数、全部で十八名。
年々少子化に伴って子どもの数が減少している。
六年生は、男子が二人。女子は、いない。
五年生は、私を含めて六人。男子一人、女子五人。
四年生は、三人。全員男子。
三年生は、五人。男子四人と女子一人。
二年生と一年生は、それぞれ女の子が一人ずつ。併せて全部で十八人。
六年生に女子がいない分、どうしても五年生の女子が地区をまとめることになる。
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