第4話

 そんなのどっちでもいいけどね。

 だいたい親の恋愛していた頃の話なんて、楽しく聞けるわけがないじゃない?


 ・・・えっと・・・話をもとに戻します。


 社会の時間に習ったのだけれどね。

「平成の大合併」なんて言うから政府の指示で初めて合併したみたいになっているけれど、もともとこの辺りは、小さな集落から成り立っていたみたい。

 それが少しずつ集まって合併したらしいのだ。

 もともと「ふたつ」あったものを「ひとつ」にすることってすごく難しいことだ。


 「佳惟、ぼーっとしていないで、ほら、みんなが待っているから急ぎなさいよ?」

 お母さんが背中を押した。

 あ、はいはい。

 「いってきまーす!」

 背中に背負った赤いランドセルもずいぶん小さくなったような気がする。

 っつーか、正直言って、もうランドセルが嫌で嫌でしょうがない。

 身長百六十㎝の私が背負うランドセル。

 お母さんがうらやむほどのモデル体型に成長したこの私に赤いランドセル。変だ!おかしい!

 どう考えても時代錯誤も甚だしい。

 これって、社会的なイジメ以外の何物でも無い

 少しずつ大人に変身していく小学校高学年のお年頃世代の私たちに「暗黒のランドセル問題」は深刻な悩み。

 六年生の女子なんかわざとランドセルのベルトをはさみで切って、背負えなくしている人もいるって噂だし。

 女子だけじゃない。

 男子もそうだ。

 百七十㎝超えの将来有望イケメン男子も増えている中で、堂々ランドセル背負っている人を見るとなんだか涙まで出ちゃう!

 そりゃあ、確かにベルト切りたくなる。

 ランドセルに穴を開けたくもなる。

 ところが、イマドキノランドセル。

 悔しいことに「丈夫」なのだ。

 ちょっとやそっとでは、壊れない。

 穴も開かない。背負いベルトなんか交換できるのだ。

 つまり、逃げられない。

 この「暗黒のランドセル問題」は、不毛なのだ。

 ああ~。

 走りながら、なんだか盛大にため息が出てしまう。


 「佳惟ちゃん、おはよ」

 「あ、しいちゃん、おはよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る