第3話

 もう背中に剣道の竹刀袋を斜めがけに背負って

 「いってきまーす。 んじゃ、すき焼き、よろしく!」

 と自分の言いたいことだけ言い散らかして、もう学校に出発してしまった。


 三歳違いの慶太兄ちゃん。

 南三陸町立歌津中学校二年生。

 七月の中総体が終わってから、兄ちゃんは、自分の通う歌津中学校剣道部の部長になった。

 つまり主将である。

 最近は、あまりおしゃべりもしなくなったけど、兄ちゃんは、小学校に入ったばかりの時からずっと剣道をやっている。

 だからその影響を受けて、私も小学校一年生の時から、剣道会に入って剣道をしている。


 南三陸町は、五年前に、「平成の大合併」という市町村合併が行われて、その時に隣の町だった「志津川町」と私の住む「歌津町」という二つの町が合併してできた「新しい町」なのだ。

 まあ、「新しい町」と言っても確かに、仙台市のように大都市近郊に見られるような、「人が増えて新しく生まれた新設の町」というものではない。

(昔から存在した小さな町同士をくっつけて財政を楽にしたい!)

 というのが上の方の偉い人たちの考え方だったらしい。

 で、「楽」になったかって?

 んーーーー。

 子どもの私には、よくわかんない。

 だって、そりゃそうでしょ?

 まだこの「南三陸町」という名前に変わって五年しか経っていないんだもん。


 私が住んでいるのは、南三陸町歌津の方。

 ついでに言うと、お父さんは、南三陸町志津川の生まれでお母さんが歌津の生まれ。

 つまり、我が家はお父さんが入り婿なのだ。


 お母さん曰く、

「高校の時にお父さんが私に一目惚れしちゃってね。

 つきまとわれてうるさいのなんのって。

 わかるでしょ?

 仕方がないからつきあってあげたの」

 との事。


 お父さん曰く、

「そんなこと、あるわけないだろ?

 いつもの様子を見ていればわかるように、お母さんにぐいぐい引っ張られて、こっちの家に連れてこられたんだ!」

 というのがお父さんの意見。

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